本年度は、これまでの成果をふまえ、M理論の可積分構造の一角を明らかにすることができた。可積分構造の肝は、無限個の対称性である。前年度までは、M理論の重要な構成要素であるM2ブレーンの世界体積理論の対称性について調べてきた。本年度は、この結果を用いて、M2ブレーンの世界体積理論についてさらなる解析を行った。まず、前年度までに明らかにした対称性が、世界体積理論の繰り込みの影響をどのように受けることを定量的に明らかにし、どのような分離セクターが現れるかを明らかにした。次に、世界体積理論が満たす可積分方程式を明らかにした。この可積分方程式を同定する際には、対称性の解析が本質的な役割を果たした。一方、分離セクターについては、可積分方程式に必要な部分と、逆に手で取り除くべき部分があることが明らかになった。理論の可積分性を明らかにすることは、理論の非摂動的な理解の手助けになると期待されるため、非常に重要である。また背景にある数学的構造を理解するうえでも、大きなステップになると考えられる。 また、可積分系の文脈からは離れるが、本年度は世界体積理論の別の解析も二つ行った。第一に、世界体積理論を置く幾何を複雑にすることにより、世界体積理論が持つ位相因子の性質を明らかにした。このような因子は、近年活発に研究されているアノマリーとの関連も期待される。第二に、世界体積理論を拡張した理論の双対性を調べた。またその副産物として、4次元のS双対性の3次元版というべき双対性を発見した。新しい双対性の発見は、強結合の理論を弱結合から調べるなど実務的な視点から有用な他、他の双対性とも絡めて理論の空間の構造を明らかにするなど、より深い理解への重要なステップである。
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