研究実績の概要 |
本研究の目的は,交換相互作用の非一様性(ボンドランダムネス)の制御が容易なランダムボンド三角格子反強磁性体のモデル物質の合成法を確立し,ボンドランダムネスが三角格子反強磁性体の基底状態と磁気励起に及ぼす効果を実験的に解明することである. 初年度である2020年度は,スピンS = 1/2ランダムボンド三角格子反強磁性体の良いモデル物質となるBa2La2Co(Te1-xWx)2O12(以下,BLCTW)の純良多結晶試料の合成法を確立した.BLCTWでは,混晶比率xによってボンドランダムネスの強さを系統的に変化させることができる.我々は,系統的にxを変化させたBLCTWの多結晶試料に対して,0.3 Kから室温までの温度範囲でゼロ磁場比熱測定を行った.xの増加に伴って磁気秩序を示す比熱のλ型ピークが強く抑制される振る舞いが観測された.さらに,これまでに得られたBLCTW(x = 0, 0.1, 0.5)に対するミュオンスピン回転・緩和(μSR)測定の結果の解析を行い,学術雑誌投稿に向け論文執筆を開始した.本研究成果の一部に関して日本物理学会秋季大会で口頭発表を行い,領域3の 学生優秀発表賞を受賞した. また,弱いボンドランダムネスが存在すると考えられるS = 1/2正方格子Heisenberg反強磁性体SrLaCuMO6 (M = Sb, Nb)の粉末中性子回折実験の結果を解析し,低温での磁気構造を決定した.SrLaCuMO6 (M=Sb,Nb)は低温で磁気秩序を示すが,Rietveld解析により得られた磁気モーメントはスピン1/2で期待される値よりも縮んでいる.これは,量子効果とボンドランダムネス効果の協力現象であると理解できる.
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