研究課題/領域番号 |
20J12301
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐伯 翼 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ヒト多能性幹細胞 / 内耳 / 有毛細胞 / 遺伝性難聴 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
遺伝子解析技術の進歩により、これまで診断のつかなかった難聴患者から稀な遺伝子変異が見つかるようになってきたが、内耳細胞は身体の奥深くにあり微細な観察ができず、細胞レベルでの病態の発症・進行の評価が困難である。本研究では、音刺激から神経活動への変換を担う内耳有毛細胞不動毛に焦点を当て、不動毛の機能に重要な遺伝子に変異が認められた難聴患者の採血から、iPS細胞の技術で内耳細胞を作製して病態解析を行う。 本年度は、ヒトiPS細胞から機能的な不動毛を有する有毛細胞へ分化誘導する培養条件の最適化を試みた。マウス蝸牛由来内耳幹細胞の培養法を参考に、ヒトiPS細胞から分化誘導した内耳前駆細胞の長期培養を試み、様々な液性因子や化合物の添加を組み合わせた分化誘導を行った。この際、分化誘導過程の様々な段階で遺伝子発現解析を行い、有毛細胞不動毛マーカーの発現が最も顕著に亢進する培養条件を探索した。 条件検討の結果、分化誘導した細胞の多くが有毛細胞マーカーのBRN3C, MYO7A陽性となる培養条件を見出した。また、有毛細胞マーカーが陽性の細胞の周囲には、支持細胞マーカーであるSOX2が陽性の細胞が観察された。走査型電子顕微鏡による不動毛の形態を調べたところ、一部の細胞で不動毛様の構造が見られた。また、機能的な不動毛をラベルするFM1-43色素を取り込んだ細胞が観察されたが、その数は有毛細胞マーカー陽性率と比べて、ごくわずかであった。現状では機能的に成熟した有毛細胞の誘導効率が低いため、基礎培地の種類や液性因子の組み合わせなどを変更するなどして、培養法の改良を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現状では機能を有する有毛細胞への分化誘導効率が低く、施行回間での誘導効率のばらつきも大きいため、液性因子を添加する条件等の改良を行っている。 また今回、複数の疾患iPS細胞株で同様の方法で有毛細胞誘導を検討したが、健常者iPS細胞株と比べ、内耳前駆細胞への誘導効率が著しく低く、有毛細胞マーカー陽性の細胞を誘導するには至らなかった。そのため、内耳有毛細胞を安定して誘導することが可能な健常者iPS細胞に遺伝子編集技術で目的の変異を導入することによる疾患iPS細胞株の樹立が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き機能的に成熟した有毛細胞を誘導するための培養条件の最適化を目指す。分化誘導した細胞について、不動毛に発現するミオシンタンパクの細胞内局在を免疫染色により解析する。また、有毛細胞の機能解析について、音の物理的刺激に応答して開口する機械受容体に特異的に取り込まれるFM1-43色素を用いた染色を検討する。健常者iPS細胞から機能的な有毛細胞を分化誘導する条件が決まり次第、不動毛の発生や機能に関わる遺伝子に既知変異・新規変異を有するiPS細胞から同様に有毛細胞を分化誘導し、不動毛の形態観察やFM1-43色素を用いた機能解析を行う。
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