研究実績の概要 |
遺伝子解析技術の進歩により、これまで診断のつかなかった難聴患者から稀な遺伝子変異が見つかるようになってきたが、内耳細胞は身体の奥深くにあり微細な観察ができず、細胞レベルでの病態の発症・進行の評価が困難である。本研究では、音刺激から神経活動への変換を担う内耳有毛細胞不動毛に焦点を当て、不動毛の機能に重要な遺伝子に変異が認められた難聴患者の採血から、iPS細胞の技術で内耳細胞を作製して病態解析を試みる。不動毛の機能を評価するためには、音圧由来の物理刺激に応答して活動電位を生成する機能的に成熟した有毛細胞をiPS細胞から誘導する必要がある。 本年度は、ヒト多能性幹細胞由来の内耳前駆細胞から、機能的な有毛細胞を分化誘導する培養条件を探索した。まず、接着培養および三次元培養を組み合わせた培養を行うことで、ヒト多能性幹細胞から高効率で内耳前駆細胞マーカー陽性細胞(SIX1+, PAX2+, PAX8+)を誘導可能であった。また、三次元培養により誘導した内耳前駆細胞について、シングルセル化し、単層培養を行うことで、MYO7A陽性の有毛細胞様細胞が得られた。誘導したMYO7A陽性細胞は、同時にF-actin陽性の有毛細胞に特徴的な不動毛と思われる構造を認めた。さらに、透過型電子顕微鏡による観察の結果、不動毛同士をつなぐ、音刺激の受容に関わるtip link様の構造が確認された。一方で、機能的な不動毛をラベルするFM1-43色素を取り込んたMYO7A陽性細胞数は少なく、成熟した有毛細胞への誘導効率は低いのが現状である。 今後は、音刺激に応答する機械受容体を発現する、機能的に成熟した有毛細胞を高効率で誘導する培養条件を確立し、有毛細胞不動毛の発生や機能に関わる遺伝子変異により発症する難聴患者iPS細胞由来の細胞を用いた病態研究に応用する予定である。
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