研究課題/領域番号 |
20J12304
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宇佐美 潤 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 超流動液晶 / 量子液晶 / 超流動 / ヘリウム / 超固体 |
研究実績の概要 |
0.03 < T < 2 Kでねじれ振り子と比熱の同時測定を行うことで、密度の不確かさに影響されずに、グラファイト上2層目4Heの超流動密度の密度依存性を測定した。 得られた超流動性の密度依存性は次の通りである。液相の途中から吸着密度の増加とともに超流動信号は上昇し中間相との共存相に入るあたりでピークを迎え、その後減少する。中間相では超流動信号は小さくなるものの有限値を示し、固相で一度消滅し、3層目の吸着が始まると再度増加する。 上記超流動転移の他に、広い温度範囲のねじれ振り子測定の結果から、ヘリウム吸着によって基板が固くなったと考えられる現象を発見した。効果が現れる温度範囲が最低温から1 K以上までと広いため、0.3 K以下で現れる超流動現象と区別できる。共振周波数を決定する2つの要素のうちのねじれ弾性の変化によるものだと考えられる。これらの効果は先行研究でも起こっていた可能性があるが、変化が小さいこと、幅広い温度範囲でデータを取る必要があることなどから、あまり報告されていないと考えられる。しかし観測された空セルの定数倍になる温度依存性は理論的な説明はなく、今後解明すべき課題である。 さらに弾性の温度依存性が液相から中間相に入る密度付近で増大することを発見した。これは超流動密度が減少し始める密度とおよそ一致する。さらに、同位体3Heの2層膜について世界で初めて比較実験を行った。その結果、超流動密度はどの相でもゼロであるものの、液相から中間相に入る密度付近で4He同様に弾性の温度依存性が大きくなることを観測した。これらの結果は広い温度範囲で現れる温度依存性の変化が古典的な弾性の効果であり、低温で4Heのみ観測された変化は超流動によるものであることを示唆する。この弾性変化は吸着膜の空間秩序の発現が原因の可能性があり、超流動液晶が実現している可能性を示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ねじれ振り子と比熱の同時測定を改良した装置を用いて行った。感度良く超流動性の密度依存性を測定し、超流動相図を作成した。また、高感度かつ広い温度範囲でねじれ振り子測定を行い、細かな密度依存性を得たことで、当初予期していなかった、ねじれ振り子で超流動だけでなく、弾性変化の影響も受けることを発見した。さらに3Heとの比較測定も行い、超流動性、弾性の効果をそれぞれ示唆する結果を得ることができ、中間相と液相の共存相で弾性が増加することがわかった。 上記弾性の効果に関する観測事実の確証、測定を行うため、当初計画していた熱輸送特性の測定を変更し、広い温度範囲で細かな密度ステップでデータを取ることに変更した。 また、構造解析測定に関しては当初予定していた海外の研究者ではなく、国内の研究者と共同研究を行うことを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
液相と中間相の共存相に入るあたりで、超流動信号、さらに弾性も鋭く変化するような振る舞いを見せているが、データ点が十分ではないため、確かに急速な変化をしているのかわからない。そこで、追加でその強い密度変化を示す液相と中間相の共存相に入る密度付近と、固相付近のデータが少ない密度の辺りでデータを測定する。 同時に、予定しているSPring-8での共同研究を進める。既に進められている冷凍システムの改良、吸着試料作成関係の装置設計・開発、より高感度に測定するためのグラファイト基板の評価・選定などを進め、7月のビームタイムで測定を行う。その後も共同研究者と議論などを行い、実験結果をシミュレーションとの比較などを行い、解析する。
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