研究課題
本年度は、(1)これまでに開発を進めてきた「薄膜試料への超高圧処理技術」の更なる発展、(2)本技術を活用した不安定な高圧相物質の大気圧下回収 という2つの研究に取り組んだ。(1): 本技術を活用した研究の更なる発展に向け、扱える圧力[8 GPa→15.6 GPa]と基板の種類[1種類→15種類]を拡張し、さらに基板の反応性や結晶方位と圧力下の振る舞いの関係について調査した。様々な基板・様々な薄膜の超高圧処理により、「Al2O3の高圧下における水分との反応」、「TiO2薄膜とLaSrAlO4基板の界面反応によるSrTiO3/LaAlO3の形成」、「直方晶ペロブスカイト型YAlO3単結晶の圧力誘起結晶方位変化」という現象を見出した。特にAl2O3の反応に関しては、表面の結晶成長について詳細に調査し、その結果がACS Omega誌に原著論文として掲載された。(2): エピタキシャル薄膜に生じる基板からの応力を活用することで、高い光触媒特性が期待されているが大気圧下では不安定なバデライト型TiO2の安定化を試みた。ZrO2の安定構造として知られているバデライト型構造は、対称性が低く、その構造をもつ物質は少ない。本研究では、様々な基板上に非晶質TiO2薄膜を作製し、バデライト型TiO2の安定領域で超高圧処理した。しかし、いずれの基板上においても減圧相であるα-PbO2型の多結晶膜が得られ、バデライト型を安定化できなかった。続いて、バデライト型ZrO2バッファー層の活用を検討したが、高圧処理可能な基板上へバデライト型ZrO2のエピタキシャル薄膜を成長させられず、バッファー層として使用できなかった。以上の結果から、バデライト型TiO2はその対称性の低さに起因した(i) 格子整合の良い基板が存在しない点、(ii) バッファー層を成長させられる基板が限られる点の2点から構造安定化が困難であり、現状での大気圧下回収は厳しいと結論付けた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、薄膜試料への高圧合成技術の開拓に取り組み、本技術を用いて多様な物質合成を行うための基礎を築くことができた。特に、川井型マルチアンビル装置で発生可能な圧力限界(~20 GPa)に迫る加圧を実現できた点と、単結晶基板として購入可能なほとんどの結晶構造(コランダム構造・ペロブスカイト構造・蛍石構造・岩塩構造・スピネル構造など)の物質に対して超高圧処理可能であることを示せた点は、次年度以降につながる大きな成果である。新型コロナウイルスの影響により、実験時間が制限された中ではあったが、2か年の研究計画を見据えた上で、順調に研究が進展していると考えている。本研究の大きな目標の1つである「不安定な高圧相物質の大気圧下回収」については、狙い通りの結果は得られなかったが、本研究の過程で薄膜試料への超高圧処理技術が磨かれるとともに、「ターゲット物質の対称性が重要である」という将来の高圧相物質の安定化に向けた重要な知見を得ることができた。対象物質の適切な選択により、残りの1年間で現実的に実施可能であると考えている。
2年目である次年度は、本年度実現できなかったバルクでは不安定な高圧相物質の大気圧下回収に取り組む。対象物質としては、数ある候補物質の中から高対称性のものに絞り、(1)ペロブスカイト型MnTiO3、(2)ペロブスカイト型CaSiO3、(3)岩塩型ZnOの3つの物質に着目する。(1): ペロブスカイト型MnTiO3はマルチフェロイックを示すことが期待されているが、2 GPa以下でLiNbO3型に相転移する。そこで、格子定数が極めて近いYAlO3単結晶基板を用いてその大気圧下回収を試みる。非等価な面として(001), (100), (110), (011)を基板として使用できることからそれぞれの基板を用いて研究を行う。(2): ペロブスカイト型CaSiO3は地殻中に極めて多く存在する鉱物であるが、数MPa以下でアモルファス化する。そこで、格子定数が極めて近いダイヤモンド基板や同じペロブスカイト型のYAlO3基板を用いてその大気圧下回収を試みる。(3): 岩塩型ZnOは紫外透明かつ両極ドープ可能な半導体となることが期待されているが、2 GPa以下でウルツ鉱型に相転移する。そこで、格子定数が極めて近いMgO単結晶基板を用いてその大気圧下回収を試みる。なお、MgOが合成条件で水と反応する場合は、MgAl2O4基板の使用や、MgAl2O4基板上に岩塩型のバッファー層を堆積させることで対応を試みる。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) 備考 (4件)
セラミックス
巻: 56 ページ: 76~79
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