地球温暖化等の環境問題や化石資源の枯渇によるエネルギー及びケミカルス源の確保が困難になる将来を見据えると、木材に代表される再生産可能なセルロース系バイオマス資源の変換によるケミカルス生産は重要な意義を持つ。熱分解は化学的・物理的に安定なバイオマス資源を効率的に分解できる手法であり、2020年度の検討において赤外線加熱を用いたセルロースの急速熱分解がプラスチックや医薬品の原料となるレボグルコサンの生産に有用であることを見い出した。2021年度ではこのような背景から、セルロースの赤外線加熱の特徴について更に検討し、分解メカニズムについて明らかにする検討を行った。 具体的な検討として高速カメラを用いた赤外線照射中のセルロース熱分解挙動の直接的な観察を行った。その結果、電熱炉等を用いた加熱とは異なる赤外線照射特有の熱分解挙動が観察された。具体的には、薄いシート状のセルロース試料では、反応初期において赤外線を吸収しやすい着色物質が生成し、その部分が赤外線をより吸収し易いため高温となり、その部分を中心として同心円状に熱分解が進行することが分かった。一方、粉末セルロースを容器に入れてある程度厚みをもたせた場合では表面の極一部において熱分解物の液滴が生じ、厚さ方向へ順次分解が進行することが分かった。これは通常の伝熱による加熱では認められない赤外線加熱に独自の特徴であり、赤外線加熱ではセルロースの試料量によらず一定の収率でレボグルコサンを得られる。これはセルロース系バイオマス資源の変換における重要な知見であり、多量のセルロース系バイオマス資源を一度に処理できるという点で工業的似も意義のある発見である。このような成果については学会において発表している。
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