研究課題/領域番号 |
20J12404
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 光流 九州大学, 総合理工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙線ミュオン / ミュオグラフィ |
研究実績の概要 |
近年、宇宙線ミュオンによってレントゲン写真のように大型構造物を透視する技術「ミュオグラフィ」が注目を集めている。これまでミュオグラフィはピラミッドや火山などの大型構造物の透視に利用されてきたが、この技術を橋梁などの小規模インフラ設備(数十メートル以下)に応用したいと考えている。小規模な対象の透視は非現実的な時間を要するため困難とされてきた。そこで本研究では橋梁などの小規模インフラ設備に生じる劣化を探査するため、エネルギーウインドウ型ミュオグラフィ手法 (EWM) の開発を目的とする。この手法では透過力が適切なミュオンを選別することにより、透過画像のコントラストを上げ、ミュオグラフィで問題となっていた長い計測時間を劇的に改善できる。従来のミュオグラフィ検出器はエネルギー弁別ができないため、エネルギー弁別が可能な検出器と既存のミュオグラフィ検出器を組み合わせた検出システムを開発する。 まず、EWMで要求される計測時間や誤差、解像度などの条件や、探査対象によって異なる最適なミュオンエネルギーを導出するために、高精度なシミュレーション手法を開発する。 そのために、宇宙線ミュオンのフラックスを測定した。これまでのミュオンの計測範囲を、鉛デグレーダと逆問題を解く解析法で大幅に広げ、過去に測定例のある350MeVまでのフラックスを取得することができた。計測結果は鉛を用いない計測ともスムーズに一致しており、今回の解析法には系統的な不確かさがないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、2020年度の10月からベルギーのLouvain大学にて研究インターンシップを行い、現地でミュオグラフィ検出器の開発に携わる予定であった。現地ではこれまでの検出器で検出できるエネルギー範囲を大幅に広げたFAMES+などの精度検証を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大のため、渡航することができなかった。しかし、オンラインで週に1度ミーティングを行い、PHITSシミュレーションを用いることでミュオグラフィ検出器の設計の一部を担当している。この点に関しては当初の予定よりも若干の遅れがあるが、概ね期待通りに進展したものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまで開発した低エネルギーミュオン検出器は、鉄の吸収体と薄型のプラスチックシンチレータを交互に組み合わせたFAMES+へと拡張し、将来的には1GeVまで計測を行う予定である。シミュレーションによる設計段階では、1cmのプラスチックシンチレータと8cmの鉄の吸収体を交互に10層組み合わせることで、このエネルギー範囲をカバー可能であることがわかっている。今後はこのFAMES+の作製を行う予定である。 また、実際の太陽活動や正しい天頂角依存性が考慮されたPARMAモデルと三次元モンテカルロシミュレーションコードPHITSを組み合わせたシミュレーション手法を開発し、弁別エネルギー の最適化を行う。ここまでの結果を国内学会にて適宜報告する。さらに、従来のミュオグラフィ検出器にエネルギー弁別機能を付加する。このエネルギー弁別用の検出器は、新規購入する分解能の高い無機シンチレータや半導体検出器などで構成される検出器①とプラスチックシンチレータによる検出器②で構成する予定である。これを既存のミュオグラフィ検出器と組み合わせた新たな検出システムを開発する。この結果を国際学会IEEE NSS/MICにて報告する。
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