研究課題/領域番号 |
20J12411
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三村 真大 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / クロマチン / タンパク質 / DNA / 遺伝子転写 |
研究実績の概要 |
生体高分子が引き起こす液-液相分離現象(以下、相分離)は、細胞内で特定の分子を区画化する”膜のないオルガネラ”の形成メカニズムとして注目を集めている。最近では、DNAとヒストンタンパク質から構成されるクロマチンの相分離が、遺伝子転写の制御と関連することが明らかにされつつある。本研究では、(i)DNA/ヒストンの相分離を制御する分子機構の解明、および(ii)相分離現象と転写反応との関連を明らかにすること、を目的とする。 初年度は、DNA/ヒストンの相分離を制御する因子を特定するために、DNAの立体構造に着目をして研究を推進した。具体的には、ランダム構造の1本鎖DNA、2本鎖DNA、および4重鎖構造のDNAを用いて、クロマチンの相分離において主要な役割を果たすリンカーヒストンH1(H1)との相分離現象を各種分光法と顕微鏡法を用いて調べた。その結果、がん遺伝子のプロモーター領域やテロメア領域に頻繁に観察される四重鎖構造のDNAがH1と著しく相分離しやすいことが判明した。光退色後蛍光回復法の検討から、相分離によって生じたDNA/H1液滴内の流動性もDNAの構造に依存することが分かった。液滴内部のDNA構造を、蛍光プローブを用いた実験や、円二色性分散計、NMR分光法により調べた結果、液滴内部では四重鎖構造が維持されており、場合によっては四重鎖構造へのフォールディングが促進されていた。塩や1,6-ヘキサンジオールに対する液滴の安定性を各DNA間で比較すると、四重鎖構造のDNAは側面の高い電荷密度に起因してH1と強く静電相互作用する上、上下の疎水的な平面によりDNA同士がスタッキングするために、他の構造のDNAと比較して相分離しやすいことが示唆された。したがって、DNAの立体構造がヒストンとの相分離にきわめて重要な役割を果たしていることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画では、DNA/ヒストンの相分離を制御する分子機構の解明を目標としていた。DNAの立体構造に着目した系統的な調査を進めたことで、DNAの四重鎖構造の重要性を見出すことができた。そのため、当初の研究計画通りに研究が推進したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
DNA/ヒストン相分離の分子機構に対する理解をさらに深めるために、ヒストンの物性にも着目し、とくに翻訳語修飾の種類や修飾部位の影響を明らかにしていく。さらに、in vitro転写活性アッセイを用いて、相分離現象や液滴の物性が転写反応にどのように影響するのか、を解明することを目標に研究を推進していく。
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