研究課題/領域番号 |
20J12445
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
御代川 涼 九州大学, 地球社会統合科学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ヒドラ / クロロコッカム / 共生 / 細胞内共生 / RNA-seq |
研究実績の概要 |
ブラウンヒドラの特定の株は、クロロコッカムとの共生関係を持っている。クロロコッカムを持たないヒドラも、クロロコッカムが水平伝播することにより共生藻を獲得できる。水平伝播により共生藻を獲得したヒドラにおいて、形態や増殖率の変化が報告されている。 本研究では、水平伝播による共生ヒドラのトランスクリプトーム解析による遺伝子発現変動解析を行い、細胞システムの変化を調べ、野外でクロロコッカムとの共生関係を持っているネイティブな共生ヒドラとの遺伝子発現の比較を行った。水平伝播により共生藻を獲得したヒドラでは、翻訳や電子伝達系に関係する遺伝子など、細胞のエネルギーバランスを制御する遺伝子に発現変動が見つかった。しかし、野外で共生藻を持っていたネイティブな共生ヒドラ株では、このような発現変動は見られなかった。さらに、エネルギーバランスを制御するTOR経路を抑制する実験により共生ヒドラは、エネルギーバランス変化への感受性が高いことが分かった。これらの水平伝播により共生藻を獲得したヒドラと共生に適応したネイティブな共生ヒドラを比較することにより、ブラウンヒドラの進化過程を概観することができた。これらの内容は、日本動物学会第91回大会およびScientific Reports vol. 11において発表した。 また、共生クロロコッカムのトランスクリプトームおよびゲノムの解読を行う予定であったが、クロロコッカムの培養および共生ヒドラの生育がうまくいっておらず、近縁のクロロコッカムのゲノム解析を行う予定とした。既存の緑藻のゲノム情報と合わせて解析することにより、クロロコッカムのライフサイクルおよび遺伝子の進化を解明できるようになることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画において、ゲノム解析やメタボローム解析を行う予定であったが、そのために必要なクロロコッカムの培地での培養方法の確立や共生クロロコッカムと共生するヒドラの増殖がうまくいかず、研究計画の大幅な変更を行う必要があった。そのため、引き続きクロロコッカムの培養や共生ヒドラの飼育を続けるとともに、近縁のクロロコッカムのゲノム解析をまず行い、クロロコッカムに特有な共生が進化するための遺伝子や形質がないか調べることを目指すこととした。ゲノム解析を行うクロロコッカムからDNA抽出を行なっている段階であり、それが完了次第ゲノムシーケンスを行い、ゲノム解析に着手する予定である。 そのため、2020年度においては既存のクロロコッカムと共生しているブラウンヒドラのトランスクリプトームデータを用いて、共生の初期段階にある共生系における宿主の細胞システムの解明を行った。これらの宿主の共生メカニズムをより詳細に明らかにすることは、共生藻および共生系全体のメカニズム解明に資することが期待される。得られた成果を研究実績の概要にあるように、雑誌論文として出版している。 さらに2021年度からは、安定した共生系であるグリーンヒドラと、ブラウンヒドラの遺伝子発現変動の比較を行っている。それぞれの遺伝子の相同遺伝子を特定し、遺伝子発現パターンの違いや共通点の探索を行っている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況で述べたように、クロロコッカムからゲノムDNAを抽出し、ゲノムシーケンスする予定である。このゲノムデータから得られた情報を他の緑藻と比較し、共生進化の元となる遺伝子および形質の特定を行っていく。これらの成果をまとめて学会発表や論文出版に進めていく予定である。 共生の初期段階にある共生系を持つブラウンヒドラと安定した共生系を持つグリーンヒドラの共生時の遺伝子発現変動の比較についても解析を進め、それぞれの共生時と非共生時の遺伝子発現パターンを比較するとともに、それらの遺伝子発現の差異を遺伝子グループや機能をもとにまとめ、考察を行うことでヒドラ-緑藻の共生系における共生の進化過程を明らかにすることを試みている。 また、それぞれの共生藻であるクロロコッカムとクロレラの細胞内での形態や培地中での増殖の様子から共生藻の形質をまとめ、それらの形質が宿主ヒドラの細胞システムにどのような影響を与えているか考察する。さらに、共生時において関連する遺伝子発現変動がないか探索を進めていき、宿主と共生藻の両側から共生の進化過程の解明を目指す。
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