てんかんの治療においては,薬剤による発作のコントロールが達成されない場合,脳の一部を外科的に切除する治療が行われることがある。側頭葉てんかんに対する側頭葉前方切除術は,外科治療の中でも効果が高いことが示されている.近年のてんかんに対する外科治療の普及に伴い,手術後の脳機能を把握するための認知機能評価の重要性が増している.側頭葉前方切除術を受けた患者の認知機能特徴として,左側頭葉を切除した患者は言語性記憶が低下しやすいことが明らかになっている.一方で右側頭葉を切除した患者は顔の再認能力が低下しやすいとの報告があるが,これまで使用されてきた顔再認課題は正面視のみであるなど,実生活とは異なる条件で評価されてきた.さらに患者本人の顔再認能力に関する困難感を検討した報告はない. 本研究では,薬剤抵抗性の側頭葉てんかんで側頭葉前方切除術後の患者30名(右側頭葉てんかん患者16名)に対し,新たな顔再認課題と自身の顔再認能力に関する自己評価アンケートを実施し,顔再認能力とその自覚について検討した.開発した顔再認課題は,顔の見る角度に変化をつけたり視覚的な雑音を加えたりといった複雑性をもたせた課題である. その結果,側頭葉を切除した患者はその切除側にかかわらず,複数の顔を記銘してから再認する課題で健常者に比して有意に低い成績を示した.また,左側頭葉切除後患者は,顔認知の困難さを自覚しており,顔を再認する課題の成績と有意な相関を認めた.日常生活に近い複雑性をもった再認課題においては,切除側に関わらず機能低下が認められることが示唆され,それを自覚するのは左側頭葉切除後患者であることが明らかになった.
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