研究課題/領域番号 |
20J12600
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
兼松 圭 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 錯視 / 色覚 / 実験心理学 / 感性情報学 |
研究実績の概要 |
錯視は視覚メカニズムの副作用であり、その発生メカニズムを探ることはヒトの視覚メカニズムを明らかにすることに繋がる。研究代表者は、シアン色背景上の細い灰色線が細い白色線に囲まれたときに鮮やかな赤色線に見える色対比錯視を過去に発見した。これは、錯視効果が極めて弱いと考えられてきたL-M錐体軸方向でのMonnier-Shevell錯視に相当する。発見されたシアン色のMonnier-Shevell錯視は非常に細い線で起こる特徴がある。本研究では心理物理実験によって錯視の発生条件を探索し、錯視を発生させる視覚モデルを構築する。 本年度は国際誌に論文1報を発表した。この論文では、Monnier-Shevell錯視の輝度特性に着目し、シアン色背景上の灰色線の輝度および囲む境界線の輝度をそれぞれ変化させて錯視量を心理物理実験で測定した。実験結果より、白色境界線のときに強い色対比(赤色)が生じ、灰色線が暗くなるほど色対比がさらに強まることがわかった。このことは、色対比が中央と周辺領域間の輝度コントラストに依存するヘルソン・ジャッド効果を再現していた。一方で、囲む境界線を取り外すと灰色線が背景輝度に近いときにのみ色対比が生じるキルシュマンの第3法則を再現していた。上記二つの既知の効果は互いに矛盾すると考えられていたが、本研究によって矛盾を生み出す仕組みの説明ができるようになった。また、眼光学的要因によって色ずれが生ずる可能性を検討するため、レンズを通した錯視画像の撮影と、色収差を起こす条件での心理実験を実施した。結果は、錯視は眼光学的要因が主要因でないことを示した。 さらに、Monnier-Shevell錯視の最適線幅を測定した結果の論文化に取り掛かった。追加の解析で眼光学的要因による色ずれをシミュレーションで計算し、非常に細い線では眼光学的要因による色ずれより大きい色対比が生じることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は論文1報を発表し、新しい錯視の存在を報告した。査読の過程で眼光学的要因を指摘されたため、追加の作業と実験を行った。追加の作業によって論文の修正に時間がかかったが、眼光学的要因が非常に細い線にどのような影響を与えるのか可視化する貴重な結果が得られた。また、残りの研究成果である線幅に依存した錯視効果に関する論文化作業にも取り掛かることができた。これらの論文化作業と並行して、新たな心理物理実験の準備もしており来年度は本年度に準備した実験の研究成果を報告できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
大きく3つの心理物理実験の実施を予定している。1つ目に、周辺領域の輝度変化に関する心理物理実験の実施である。2つ目に色の加算性を確かめるため、中央線を有彩色線に変えて錯視量の測定を行う。3つ目に、1錐体レベルに細かい色の見えをカラーネーミング法を通して測定し、シアン色のMonnier-Shevell錯視の現象と比較する。これは、シアン色のMonnier-Shevell錯視が1錐体レベルに細い線を必要とすることから、非常に細い線に特異的な色覚メカニズムが関与する可能性を調査するためである。
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