研究実績の概要 |
1つ目に,団複体(cluster complex)の構造に関する研究を行なった.団複体は,団代数における団を極大単体とするような単体複体のことであり,結晶ルート系における一般化アソシアヘドロン(generalized associiahedron)や点付き局面の三角形分割に付随する弧複体(arc complex),あるいは多元環の表現論における台τ傾加群から構成される単体複体の類似・一般化に相当する.とくに,この単体複体の正団複体(positive cluster complex)と呼ばれる部分複体を考えた.この部分複体について,元の団複体の単体集合が有限集合の場合における以下の2つの結果を得た. 1.初期団が変異によって変化したときに,正団複体の面ベクトルの増減量に関する公式を与えた.具体的には,面ベクトルの増減量は,変異を行う団変数を取り除くことで得られる初期団が誘導する団複体の面ベクトル増減量に等しい.特に,この団複体が変異の前後で変化しない場合,変異の前後での正団複体の面ベクトルは変化しない. 2.古典的なルート系(A,B,C,D型)の一般化アソシアヘドロンに対応する団複体について,初期団が特別な場合の正団複体の明示的な記述を行った.また,これを用いてこれらの正団複体の面ベクトルを与える公式を与え,これがKrattenthalerが2006年に与えた公式に一致することを確かめた.
2つ目に,F行列の整数論の文脈における実現を与えた.具体的には,Stern-Brocotツリー,Calkin-Wilfツリーという規約分数を頂点に持つツリーを,Markov型団代数と呼ばれる団代数のfベクトルから点付きトーラスの三角形分割に定まる交点ベクトルを介して構成した.この2つのツリーはそれぞれ団代数のfベクトルの変異と初期変異から双対的な方法で構成される.
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