研究課題/領域番号 |
20J12698
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 玲於奈 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | R-loop / DNA二重鎖切断 / 相同組替え / Rap80 |
研究実績の概要 |
DNA二重鎖切断修復過程におけるR-loop構造の保護機構の解明を行うために、レーザー照射システムを用いた一重鎖DNAの可視化する系の確立を行った。レーザー照射した細胞に一重鎖DNAを特異的に認識する抗体と、DNA二重鎖切断のマーカーとしてγH2AXの抗体を用いて蛍光免疫染色を 行い、そこから得られた画像から染色強度を測定することによって一重鎖DNAの可視化および転写依存的なDNA二重鎖切断修復過程での挙動を解析することに成功した。この技術を用いて解析をおこなったところ、ミスマッチ修復に関与するといわれているMSH2が一重鎖DNAの保護に関わることが示唆された。また、データベース解析を用いたところ、相同組替え修復に関わるBRCA1の複合体を形成しているRap80の発現量が少ないがん患者において遺伝子欠失や遺伝子融合の割合が増加していることが判明した。このことからRap80がDNA二重鎖切断における遺伝子異常からの保護に関わっているのではないかということが示唆された。 次に、一重鎖DNAとRap80との関連性について検証するために、レーザー照射システムとsiRNAを用いてRap80をノックダウンさせた細胞で一重鎖DNAを観測したところ、通常細胞にくらべてノックダウン細胞では一重鎖DNAの時間経過による減少量が増加した。このことから、DNA二重鎖切断修復時においてRap80が一重鎖DNAの保護に関与していることが示唆され、ゲノム安定性の維持における一重鎖DNAの保護の重要性について極めて新しい知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況に関して非常に順調である。2020年度はコロナウィルスによる緊急事態宣言が発令されてた時期があり、例年よりも研究を行うことができる時間が少なかった。しかし、そんな状況にも関わらず当初の予定よりも早く、レーザー照射システムを用いた一重鎖DNAを可視化する系の確立が行えたことにより、十分な研究成果が得られた。一重鎖DANを可視化することができたことにより、DNA二重鎖切断修復過程時におけるR-loop構造内に存在している一重鎖DNAの挙動の解析および、その保護に関わるタンパク質の解析を行うことができた。これにより、ミスマッチ修復タンパク質として知られているMSH2がR-loop構造内の一重鎖DNAの保護に関与していることが示唆された。さらに、データベース解析によって相同組替え修復に関わるBRCA1とBRCA-1-A複合体を形成するRap80の関与についても示唆された。このRap80をsiRNAを用いてノックダウンさせた細胞では一重鎖DNAの時間経過における減少量が野生株に比べて増加していた。また、DNA二重鎖切断修復のマーカーとなるγH2AXフォーカスのカウントを行ったところ、野生株にくらべてRap80ノックダウン細胞では多く、ここに転写阻害剤を加えると、フォーカス数が野生株レベルまで減少したことがわかった。 これらのことから、Rap80がDNA二重鎖切断修復過程においてR-loop構造内の一重鎖DNAの保護に関与しており、それによってゲノム安定性の維持における一重鎖DNAの保護の重要性について新しい知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究で、Rap80が一重鎖DNAの保護に関与していることが示唆され、この保護によってゲノム安定性が保たれていることが分かった。しかし、Rap80がどのようにして一重鎖DNAの保護に関与しているのかは分かっていないので、そのメカニズムについて解明していく。すでに知られているDNA二重鎖切断に関与するとされている因子に対してsiRNAの組み合わせなどを用いて、関与の有無や上下関係を明らかにしていくことで、R-loop構造の保護メカニズム経路の解明を目指す。また、実際にDNA二重鎖切断を修復した際の遺伝子欠失の解析を行う系の確立を行い、修復領域に発生した遺伝子欠失・挿入の有無や頻度を観測していく予定である。このゲノム不安定性解析の系を用いて、一重鎖DNA領域の保護がどのようにゲノム安定性の維持に関与しており、どれほどの影響を与えているのかを解析する。 DNA二重鎖切断修復過程におけるR-loop構造は、DNA/RNAハイブリッド構造と一重鎖DNA構造によって形成されている。この2つの構造がそれぞれ異なる機構によって制御されており、DNA二重鎖切断修復におてどちらの制御も独立してゲノム安定性の維持において非常に重要であるということが示すことができれば、極めて新しい知見であり、幅広い研究分野にインパクトを及ぼすことができ、それぞれの分野において大きく発展をもたらすことができるのではないかと考えている。
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