細胞にとってDNA損傷は重篤な問題であり、遺伝子異常のリスクの増加によって、がん化の原因となり得ることが知られている。そのため、DNA損傷に対する修復について多くの研究が行われているが、未だに解明されていないことが多い。本研究では転写活性化部位におけるDNA二重鎖切断修復がどのような経路で導かれ、制御されて正確な修復が行われているのかを解明することを目的とした。その結果、Rap80が一重鎖DNAの保護に関与しているおり、この保護によってゲノム安定性が保たれていることが分かった。DNA二重鎖切断修復過程におけるR-loop構造は、DNA/RNAハイブリッド構造と一重鎖DNA構造によって形成されている。RAP80の欠損によって一重鎖DNAにエンドヌクレアーゼ活性を持つCtIPが過剰に蓄積することにより、R-loop構造内の一重鎖DNAが削られてしまい、遺伝子領域の欠損へと繋がる可能性が示唆された。これらのことから、RAP80は遺伝子領域に生じるゲノム異常の発生を抑制し、がん化の抑制に寄与していることが明らかとなった。また、G1期における細胞で転写活性が高いゲノム領域にDNA二重鎖切断が発生した際は、転写共役型末端結合(TA-EJ)によってDNAの損傷は修復されるが、RAP80欠損細胞ではそのバックアップ経路が存在しており、DNA二重鎖切断は修復されるが、CtIPによるR-loop内の一重鎖DNAが切断されるとともに、修復過程で末端が切除されることによるゲノム異常のリスクが高まる可能性が明らかとなった。 これらのことから、G1期における転写活性の高いゲノム領域で発生したDNA二重鎖切断の修復にはRPA80が関与しており、正常な修復を制御することによってゲノム安定性の維持に非常に重要な役割を担っており、がん化のリスクを抑制していることが示唆された。
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