研究課題/領域番号 |
20J12701
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
志村 侑亮 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | プレート収束域 / 付加体 / 高圧変成岩類 / 白亜紀 / 西南日本 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,プレート収束域における浅部での付加体形成から深部での高圧変成岩類の形成・上昇といった一連の付加・上昇テクトニクスを解明し,モデル構築を行うことである.目的達成のため,白亜紀のプレート収束域で形成された西南日本外帯の四万十付加体と三波川変成岩類を研究対象としている.令和2年度は,野外調査に基づき四万十付加体から三波川変成岩類までの変形様式・変形ステージを把握すること,炭質物ラマン分光分析やEPMA分析に基づき両地質体の最大到達温度・圧力の見積もりを行うことを主な実施計画として挙げた.上記の検証により,四万十付加体から三波川変成岩類までのプレート収束域到達深度に応じた変形構造のトレンドを追跡することを目標とした. 野外調査の結果,本地質体は脆性変形を記録した四万十付加体,延性変形を記録した三波川変成岩類,およびいずれの変形も記録した中間地質体の3つに区分できることがわかった.中間地質体については,採用以前の準備段階で行った炭質物ラマン分光分析により280~290度の最大到達温度を見積もることができており,この温度は四万十付加体の上限温度と三波川変成岩類の下限温度の中間に位置付けられる.すなわち,白亜紀のプレート収束域では,浅部から深部へ,脆性変形を伴う四万十付加体→脆性+延性変形を伴う中間地質体→延性変形を伴う三波川変成岩類と連続的な特徴変化をしていた可能性がある. 炭質物ラマン分光分析やEPMA分析を用いた最大到達温度・圧力の見積もりは,現時点で特定の地域での検討に限られる.四万十付加体から三波川変成岩類までの広域温度・圧力条件の見積もりとその空間的分布を把握するため,今後重点的に分析を進めていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の野外調査により,四万十付加体から三波川変成岩類までの一連の変形様式・変形ステージ,およびそのトレンドを把握することができており,野外調査の遂行状況は良好である. 炭質物ラマン分光分析やEPMA分析を用いた地質体の温度・圧力条件の検討は現時点で特定の地域に限られているため,当初の計画よりもやや遅れている.上記の点については,次年度優先的に進めていく. 本研究の最終到達点である,白亜紀プレート収束域における付加・上昇テクトニクスのモデル構築のため,西南日本外帯全域に分布する四万十付加体と三波川変成岩類の構造的・熱的な既存データの収集も進めた.これにより,広域的に共通する構造的・熱的特徴と,地域差がある特徴の存在を見出し,これらの違いが何に起因しているのか議論することができた.また,上記の検証を進める過程で,白亜紀の付加・上昇テクトニクスによる大陸地殻側の影響を考慮する必要が生じたため,白亜紀以前の西南日本外帯の地質体(ジュラ紀の秩父付加体)を対象とし,野外調査およびジルコンU-Pb年代測定を行った.結果として,大陸地殻側の地質構造改変も考慮した白亜紀付加・上昇テクトニクスの最適なモデル提唱に近づくことができた.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,四万十付加体,三波川変成岩類,および中間地質体の境界を詳しく調査し,各地質体がどのような地質構造関係を持っているのか明らかにする.これにより,白亜紀当時のプレート収束域における付加体形成から高圧変成岩類の形成・上昇までのプロセス,および上昇後の地域的な隆起や地質構造改変について検証する.同時に,炭質物ラマン分光分析やEPMA分析を用いた地質体の最大到達温度・圧力の見積もりを広域的に実施し,温度・圧力条件の空間的な把握を進める.また,上記の構造的・熱的データ蓄積に加えて,テクトニックモデル構築のために年代制約が必要となった際には臨機応変に対応する.
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