本研究の目的は,プレート収束域における浅部での付加体形成から深部での高圧変成岩類の形成・上昇といった一連の付加・上昇テクトニクスを解明し,モデル構築を行うことであった.目的達成のため,同時期(白亜紀)に形成された西南日本外帯の四万十付加体と三波川変成岩類を研究対象とした.令和3年度は,紀伊半島の東西50 km×南北32 kmの範囲において30日以上の野外調査を実施し,2年間の野外データを集約させることで広域地質図・断面図を完成させた.これにより,紀伊半島に分布する白亜紀地質体は,岩相・構造的位置・陸源砕屑岩の堆積年代の特徴に基づき,香束層・色生層・麦谷層・小栗栖層・新子層・高原川層・赤滝層・槙尾層の8つの地層に区分でき,さらに変形構造の特徴に基づき,三波川タイプ(香束層・色生層)・麦谷タイプ(麦谷層・小栗栖層・新子層)・四万十タイプ(高原川層・赤滝層・槙尾層)の3タイプに大分できることを明らかにした.各タイプの陸源砕屑岩の堆積年代は,前期白亜紀~暁新世初期の範囲に収まり,各タイプ内では構造的下位の地層ほど堆積年代が若化していることが判明した.これは,プレート収束域の付加作用により生じる年代極性と一致する.また泥質岩の変成温度や苦鉄質岩の変成鉱物から,北部のタイプ(見かけ構造的上位)ほどプレート収束域深部まで到達していることも見出した.これらのことを踏まえ,白亜紀~古第三紀当時のプレート収束域における付加・上昇テクトニックモデルを構築した.
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