研究課題/領域番号 |
20J12783
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 伸 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 暗黒物質 |
研究実績の概要 |
暗黒物質は数々の宇宙観測から存在が示唆されている未知の物質成分であり、現在の宇宙では 、この暗黒物質とバリオンの残存量が偶然に近い値になっているという問題がある。この問題を解決する方法として提案されている理論が非対称暗黒物質模型である。私はこの非対称暗黒物質模型のうち、ダークフォトンを含むものに注目して研究を進めてきた。当該年度では非対称端国物質模型に端を発して暗黒物質の自己相互作用に関する研究とダークフォトンの性質に関する研究を行なった。 一つは矮小銀河中の星の運動から暗黒物質の自己相互作用の強さに制限をつける研究である。矮小銀河は星形成の頻度が低く、星の運動は暗黒物質の分布によって大きく影響されるため、暗黒物質の自己相互作用に対して感度が良いという点に注目して制限を計算した。結果として、自己相互作用する暗黒物質の分布として考えられていた簡単な模型では、観測に整合しないということを示した。 ダークフォトンに関する研究では、昨年の6月に発表された暗黒物質の直接探索実験(XENON1T)の結果を説明する模型に関する研究を行なった。この実験の結果からは、確定的ではないものの、標準模型を超える物理の可能性が示唆されており、さまざまな模型が提案された。その中でもニュートリノと結合するダークフォトンを導入し、実験結果を説明しようと試みる模型が提案されていたが、我々はその模型は宇宙論と整合が取れないことを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、計画以上の進展が見られた理由としては、当初の計画で行う予定であった研究が採用までの準備期間に大きく進展を見せたため、当該年度ではその研究から派生した研究にまで着手できたからである。特にダークフォトンに関する研究では、当初予定していた宇宙マイクロ波背景輻射の観測から制限をつける研究に引き続いて、その研究で得た知見を拡張して直接探索実験の結果を説明する模型に適用するなど、当初の計画にはなかった進展が見られた。さらに、ダークフォトンの研究を進めていく中で、プラズマから受ける熱的な補正の取り扱いや、ニュートリノ振動の取り扱いなど、改善すべき点が明らかになり、今後の研究を進めていく上での目標が明らかになった点でも実りが多かった。また、矮小銀河を用いた暗黒物質の自己相互作用の制限に関する研究も、当初の計画にはなかったが、当該年度中に遂行することができた。以上の理由から、当該年度では計画以上の進展が見られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、ダークフォトンを含んだ非対称暗黒物質模型に注目して研究を進める予定である。ダークフォトンに関しては熱的な補正及びニュートリノ振動を考慮した制限に拡張し、さらに詳細な研究を行う予定である。特に、ニュートリノ振動を含めた発展方程式を書き下すには、量子力学的な効果を含めた方程式の拡張が必須になるため、まずは量子的な効果も含めた方程式に対して理解を深めていく方針である。また、これまでに行なってきた非対称暗黒物質模型に関する研究ではダークフォトンの質量に関しては、より高エネルギーの物理に端を発していると仮定して、その起源を含めた模型構築までは行なっていなかった。今後はダークフォトンの質量の起源も明らかにした模型構築を行なっていく予定である。特に暗黒物質も含むセクターのダイナミクスによってダークフォトン質量を説明できるような模型を模索する予定である。
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