研究課題/領域番号 |
20J12830
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
張 静 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ダイヤモンドライクカーボン / 反応分子動力学法 / 摩耗 / 摩擦 |
研究実績の概要 |
機械機器の故障や寿命の原因の約75%は、「摩擦」により引き起こされる「摩耗」に起因する。そのため、本研究では、「超低摩耗現象の学理」の構築を目的とした。本年度は、低摩擦コーティング材ダイヤモンドライクカーボン(DLC)に着目し、開発した大規模シミュレータを活用して、(1)メタノール環境が摩耗を低減するメカニズムの解明と、(2)グラフェン添加剤が摩擦・摩耗に与える影響の解析を行った。 (1)アルコール中において、DLCの摩耗が減少するメカニズムを解明するために、メタノール環境中のDLC膜の摩擦シミュレーションを行った。メタノール環境中、摩耗した表面が自己修復により、凝着摩耗が減少することがわかった。また、摩擦シミュレーションを繰り返し行ったところ、低摩擦化をもたらすことが知られているsp2炭素がDLC表面に生成することがわかった。以上の結果から、メタノール中ではDLCの自己修復によって摩耗が抑制され、炭素のsp2化によって摩擦力が低減することが明らかになった。 (2)グラフェンの添加は、DLCの摩擦特性をさらに向上することが可能であるが、その効果はグラフェンのサイズに依存することが報告されている。そこで、グラフェンサイズがDLCの摩擦特性に与える影響を解析した。72個の炭素原子で構成される小さなグラフェンシート(G72)と324個の炭素原子で構成される大きなグラフェンシート(G324)を用いて、シミュレーションを行った。G72の場合では、グラフェンが接触部から排出され、DLC同士が凝着する様子が見られた。一方G324の場合では、グラフェンが接触部に介在しやすいため、表面同士をつなぐC-C結合が減少し、摩擦力と凝着摩耗を減少することが明らかになった。以上より、大きいサイズのグラフェンは摩擦界面に介在しやすく、潤滑膜として摩擦係数と凝着摩耗を減少することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機械機器の故障や寿命の原因の約75%は、「摩擦」により引き起こされる「摩耗」に起因する。これに対して、低摩擦、低摩耗材料の設計指針が強く求められている。そこで本研究では、「化学反応」と「摩擦、摩耗」を解明可能な大規模シミュレータを開発して、低摩擦コーティング材であるダイヤモンドライクカーボン(DLC)の摩擦・摩耗メカニズムの解析を行った。本年度は、アルコール環境中においてDLCの摩耗量が低下するという研究報告に着目し、メタノール環境中でのDLCの摩擦シミュレーションを行った。シミュレーションの結果、メタノールのメチル(CH3)基とヒドロキシル(OH)基が、DLC表面の摩耗によって生成されたダングリングボンドを終端することを明らかにした。これによって、摩耗したDLC表面を修復するとともに、ダングリングボンドが相手面の炭素原子と結合し、DLCの凝着を防ぐことも明らかにした。またDLC表面では低摩擦化をもたらすことが知られているsp2炭素が生成することも明らかにした。これらの修復作用とsp2炭素の生成により、DLCの低摩擦化と耐久性向上がもたらされることを明らかにした。また、本年度は、異なるサイズのグラフェン添加材がDLCの摩擦特性に与える影響の解析を行った。その結果、小さいサイズのグラフェンより、大きいサイズのグラフェンの方がDLC界面に介在しやすいため、DLC界面の凝着が抑えられ、摩擦係数と凝着摩耗が減少することを明らかにした。一方、大きいサイズのグラフェンは、小さいサイズのグラフェンと比較して壊れやすく、性能が劣化しやすいことを明らかにした。以上の通り、摩耗を抑制する化学反応機構が明らかになっていることから、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
①長時間の摩耗過程に対応可能な有限要素法と反応分子動力学法のハイブリッド手法の開発 (1)本研究で開発した反応分子動力学シミュレータにより、「化学反応を伴う摩耗現象」を世界に先駆けて解明可能にした。しかし、超低摩耗材料を実現するための設計指針は未解明のままである。また、通常の分子動力学法で扱えるのは数ナノ秒の現象であり、秒~時間単位の長時間の摩耗現象は未解明のままである。そのため、有限要素法に基づくシミュレータと反応分子動力学シミュレータのハイブリッド化を実現し、秒~時間単位までの取り扱いを実現する。具体的には、反応分子動力学法で得られた化学反応式、化学反応の活性化エネルギー、接触表面積などの情報を有限要素法のシミュレータに組み込む。超大規模分子動力学シミュレータを用いて、反応分子動力学法と有限要素法で全く同じμmサイズの系を計算可能にすることで、本ハイブリット化を可能にする。本ハイブリッド化は、分子動力学法を用いて1 億原子計算を可能とする本研究のみが実現できる。 (2)炭素系、セラミックス系、金属系の摩擦材料に対して上記ハイブリッド手法を適用し、これまでに得られた設計指針が長時間計算においても妥当性が成立するかを検証し、設計指針の改善と更なる進展に繋げる。 ②実験研究による超低摩耗材料の設計指針の妥当性の検証とそれに基づく設計指針の改善と更なる進展 (1) Ecole Centrale de Lyon のMartin 教授が所有する、世界有数の真空下で摩耗プロセスのその場分析が可能な装置を活用して、自らが摩耗試験を行い、摩耗率や摩耗生成物を解明する。実験結果を計算結果と比較し、これまで得られた設計指針の妥当性を検証し、設計指針の改善と更なる進展に繋げる。
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