研究課題
本研究の最終目標は、半導体量子ドット中の電子スピン量子ビットを用いて量子テレポーテーション(QT)を実現することである。QTでは、量子論特有の非局所性が重要であり、さらに量子計算に必要な技術一式が必要不可欠であるため、量子情報処理技術の進度の指標としても捉えられる。それゆえQTを実現することで、電子スピン量子ビット系が量子計算において有用であることを示すことができる。今年度はQTに必要な量子もつれ検出を2スピンの相関読み出しで実現することを目指し、二重量子ドットの構造を持つ試料を用いて原理検証を行った。2スピンの相関読み出しを用いると2ビット操作を用いずに量子もつれの検出をすることができる。また読み出し時間が従来の方法よりも高速になるため、電子スピン量子ビットのコヒーレンス時間内に操作を完了することが可能となる。実験では、まず各量子ドットに電子スピンが一つ閉じ込められている状態を実現し、各量子ドットと電子溜めの結合や、量子ドット間の結合がゲート電極にかける電圧により調整できることを確認した。次に2スピンの相関読み出しの実現に取り組んだ。2スピンの相関読み出しでは、スピンの自由度(スピン一重項とスピン三重項)とドット間における電荷のトンネル可否の自由度が一対一で対応し、なおかつスピン三重項の緩和時間が読み出し時間(数マイクロ秒)よりも長い必要がある。そこで測定した試料においてスピン三重項の緩和時間を調べたところ、スピン偏極したスピン三重項では緩和時間が数10マイクロ秒以上であったのに対し、スピン非偏極のスピン三重項においては1マイクロ秒以下であった。これは量子ドット間の磁場差が大きいことによる影響である。この結果から、量子ドット間の磁場差を抑制するように微小磁石の構造を改良する必要があり、また所望の位置に量子ドットが形成されるように試料構造を変更する必要があることがわかった。
3: やや遅れている
QTに必要な2ビット操作は周囲の電荷ノイズの影響を受けるという問題があった。これまでの研究計画では2ビット操作を2スピンの相関読み出しで代用することでQTを実現することを目指していた。しかし今回の結果により2スピンの相関読み出しには試料全体の構造を変更する必要があることがわかった。そこで現在は別の方法で2ビット操作を改善することを目指している。
今後は、まずQTに必要な2ビット操作の動作精度の向上を目指す。2ビット操作は周囲の電荷ノイズの影響を受けるため、電荷ノイズが大きい際に動作忠実度が低下するという問題がある。そこでFPGAにより、電荷ノイズの影響が抑制されるようにゲート電極にかける電圧を補正することで2ビット操作の動作忠実度の向上を目指す。本測定が終了した後、操作精度の高い2ビット操作を用いてQTを行い、QTのアルゴリズムとしての忠実度を評価することを目指す。
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10.1038/s41534-021-00403-4