研究課題/領域番号 |
20J12870
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永井 薫子 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / イメージング / セラノスティクス / 架橋高分子 / 乳化重合 / 発光 / がん / 近赤外光 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、がんの診断と治療を一回の薬剤投与で、かつ外科的手術なしで可能にするセラノスティクス材料の開発である。申請者が着目している単層カーボンナノチューブ(単層CNT)は、生体透過性の高い近赤外光を吸収し発光と発熱を生じる稀有な光学特性を有するため、体内に投与しても、体外からの発光イメージング診断および光熱治療を実現する材料と期待されている。申請者は、被覆安定な架橋高分子層で単層CNT表面を覆う独自の機能化方法を展開することで、段階的に目的の達成を目指している。 今年度は、イメージング診断を低投与量で実現するために、単層CNTの発光の高輝度化を主に行った。全身イメージングは、がんの発生箇所や転移を追跡することができる強力な診断技術である。さらに近年、単層CNTのsp2ネットワークにごく低密度のsp3欠陥(量子欠陥)を導入することで、もとの発光(< 1000 nm)よりも長波長側(> 1000 nm)に発光強度の向上した新規発光が出現することが報告され注目されている。この発見を本研究に導入し、さらなる高輝度化が実現できれば、イメージングに必要なCNTの投与量の低減につながる。申請者は、乳化重合時に生成するラジカル種を低密度で単層CNTにラジカル付加させることで量子欠陥を導入できると考えた。重合条件検討の結果、よりイメージングに適した近赤外第二領域に量子欠陥に由来する新規発光が得られ、最適化した条件ではもとの発光の約6倍もの発光強度を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、単層CNTによる近赤外光セラノスティクスの実現を目指している。本年度明らかにした高輝度化手法は、架橋高分子によって単層CNTの安定な修飾と高輝度発光を両立した新規要素である。この知見に加えて、予備的ではあるが、本年度新たに開発した高輝度化CNTを用いたマウス実験も行っており、既報の約26分の1の投与量で、マウスの血管イメージングを行うことができることを示唆する結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者はこれまでに、抗体修飾に汎用される反応基(マレイミド基)をもつ新規機能性モノマーを設計・合成し、架橋高分子層に反応基を有する『機能性高分子被覆CNT』を報告している。この機能性高分子被覆CNTの機能化は、抗体と機能性高分子被覆CNTとをただ水中で混ぜるだけで抗体を修飾でき、簡単かつ安定な修飾ができることが明らかになっている。この成果と、本年度開発した高輝度化手法を、共重合によって統合することでセラノスティクスを目指す。
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