研究課題/領域番号 |
20J12903
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
三上 裕也 九州大学, システム情報科学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 屈折率 / 実効屈折率 / 低屈折率 / マイクロディスク / マイクロキャビティ / レーザー |
研究実績の概要 |
屈折率を設計可能なマイクロディスクレーザーを作製するため、申請時、2020年度には接着剤の混合、シロキサンオイルの含侵、紫外線照射を行う予定であった。 これに基づき、2020年度は始めに、接着剤を含まない、球形と非球形のシリカナノ粒子を混合する屈折率設計について、マイクロディスク構造の作製を試みた。これと接着剤を混合する場合を比較するためである。本実験によって、屈折率の高いマイクロディスクほど構造が不安定で、ひび割れが生じ易いことが明らかとなった。この構造の不安定性を改善するためにも、やはり接着剤の混合などの補強が必要である。また構造が不安定だと、シロキサンオイルの含侵でマイクロディスク構造が崩れる可能性が高い。 そのため次に、接着剤を混合する場合の屈折率の変化について評価を行った。混合する接着剤の割合を変えた薄膜構造の屈折率を測定し、最大で1割弱屈折率が上昇するという結果を得た。この手法では、形状の異なるシリカナノ粒子を混合する手法と同程度の屈折率設計が可能であることが明らかとなった。 接着剤の混合により構造安定性が高くなったと考えられたため、接着剤を混合したマイクロディスク構造を新たに作製し、屈折率評価を行った。作製やその後の評価実験において、期待通りマイクロディスクにはひび割れなどがほぼ生じなかった。屈折率評価では、レーザー発振スペクトルの分析により実効屈折率において非常に低い値を得た。 この接着剤の混合について、深紫外線照射も試みた。深紫外線の照射によって、薄膜構造のサンプルにおいて屈折率が低下した。本実験により、構造安定化のため添加する接着剤により上昇する屈折率を相殺することが可能な、屈折率設計のための重要な知見が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究においては、屈折率デザイン可能なマイクロディスクレーザーという研究テーマについて、その屈折率設計のいくつかの方法について評価を行うことができた。これにより、単純にマイクロディスク構造の屈折率を設計するだけでなく、その構造安定性も考慮した手法を構築することが可能となった。 特に、シリカナノ粒子のみでマイクロディスク構造を作製する場合、屈折率は広い範囲で設計可能となるが、代わりに構造安定性が低くレーザー発振を達成することは困難であることが分かり、接着剤等の構造安定性を改善する手法が必要であることが明らかとなった。この場合、接着剤の混合により屈折率は上昇してしまうが、追加で深紫外線照射を行うことで再び屈折率を下げることが可能であるということも明らかとなった。また、接着剤を混合した場合のマイクロディスク構造について、レーザー発振スペクトルを解析することよってより詳細な屈折率特性の評価も行うことができた。 具体的には、形状の異なるシリカナノ粒子を混合してマイクロディスク構造を作製し、接着剤を混合する必要性を明らかにした。そのために、接着剤を割合を変えて混合し、その割合に応じて屈折率が0.02から0.08上昇する、という屈折率の設計範囲を達成した。また、接着剤の混合によって、マイクロディスク構造を安定化させひび割れなどを減らすことにも成功した。この接着剤の混合によって最大で0.08屈折率は上昇してしまうが、それに深紫外線を3時間照射することで屈折率が0.07下がり、わずか0.01の上昇で構造安定性を向上させることに成功した。最後に、接着剤を混合したマイクロディスク構造を作製し、レーザー発振スペクトルを分析することによって、実効屈折率が最も低い場合で約1.1という値を達成した。 以上より、2020年度の本研究テーマは順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
屈折率設計に関する検討項目の内、2021年度は主にナノ粒子の導入について研究を行う予定である。2020年度の研究により、屈折率が1.1から1.3程度の比較的低い領域での屈折率設計については複数の手法が検証できた。そのため、2021年度では、屈折率を設計できる範囲を拡大するために、2020年度よりも屈折率の高い範囲についての調査を主に行う予定である。 屈折率を高くするためにはいくつかの手法が考えられるが、その中でも屈折率の高いナノ粒子を混合することで屈折率を上昇させる手法は、これまで低い範囲で行ってきた屈折率設計の手法と同じスキームを利用して屈折率を高くすることが可能だと考えられるため、本研究テーマに適した手法である。混合するための高屈折率なナノ粒子としては、屈折率を高くすると同時にレーザー発振のため透明性なども要求されるため、ダイヤモンドを第一の候補として検討する予定である。ダイヤモンドナノ粒子をシリカナノ粒子分散溶液と混合し、その屈折率について評価を行う予定である。その他、量子ドットを混合することで屈折率を上昇させると同時に発光材料としても活用する方法も考えられるが、この場合量子ドットの光散乱によって光学特性が低下する可能性が高いため、まずはダイヤモンドに注力する。 また、2020年度に明らかとなった、接着剤を混合してマイクロディスク構造を安定化する手法を、ダイヤモンドナノ粒子を用いる場合にも適用し、より高屈折率かつ安定なマイクロディスク構造の作製を目指す。これによって、マイクロディスク構造においてより広い範囲で屈折率設計が可能となると期待される。 以上の実験と合わせて、2021年度は、得られた屈折率設計に関する研究成果についてまとめ、博士の学位取得のために、査読付き英文論文への投稿を積極的に行っていく予定である。
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