研究課題/領域番号 |
20J12919
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横森 創 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 金属ジチオレン錯体 / 水素結合 / 分子性結晶 / ベイポクロミズム / 電子―プロトン相関 |
研究実績の概要 |
本年度は、πおよびd電子と水素結合が相関した機能物性開拓を目的として、研究遂行計画に従った(i)カテコール部位を持つニッケルジチオレン錯体を基盤とした新規結晶の開発および機能性開拓に加え、(ii)メトキシベンゼン部位を持つ亜鉛ジチオレン錯体結晶の合成とその光機能性開拓を行った。 (i) 結晶化溶媒を変えることで、カテコール部位を持つニッケルジチオレン錯体を有する複数種の新規結晶の合成を行った。これら結晶のESR測定によって、ニッケル錯体が脱プロトン化と酸化によってそれら結晶の磁気特性が変化していることを見出した。この結果と放射光を用いた精密結晶構造解析によって、各結晶のニッケル錯体は脱プロトン化・酸化状態に応じて全4種類が存在することを明らかにし、溶液中におけるこのニッケル錯体のプロトン共役電子移動過程を提案した。また、結晶構造を基にしたDFT計算の結果、脱プロトン化・酸化によってd/π電子状態も大きく変化していることが明らかとなった。 (ii)新規に合成されたメトキシベンゼン部位を持つ亜鉛ジチオレン錯体結晶では、メタノールもしくは水分子の吸脱着に伴ってその可視光吸収特性(色)と発光特性が変化するベイポクロミズムが観測された。これらの結晶の固体可視紫外吸光スペクトルおよび蛍光スペクトル測定によって、その光学特性を定量的に評価した。これら結晶の構造解析から、吸着分子と亜鉛錯体間には水素結合が存在し、このベイポクロミズムが水素結合形成と関連したものであることが示唆された。さらに結晶構造を基にした周期境界条件を考慮したDFT計算によって、この結晶では分子構造変化ではなく、分子間水素結合形成のみによって分子間電子移動が起こり、電子状態の変化(=光学特性変化)が起こっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していたカテコール部位を持つ金属ジチオレン錯体を用いた新規結晶の開発に関して、中心金属にニッケルを用いた錯体からなる複数種の新規結晶を合成し、ニッケル錯体の脱プロトンおよび酸化に伴う磁気特性とd/π電子状態の変化というd/π電子とプロトンの相関した電子機能性を見出すことに成功した。 さらに、新規亜鉛ジチオレン錯体結晶において、メタノールまたは水分子が結晶状態を保ったまま可逆的に吸脱着し、これに伴って結晶の可視光吸収(色)と発光特性の変化(ベイポクロミズム)を見出した。結晶学的・計算科学的観点から、このベイポクロミズムの起源は、従来報告されていた分子・集積構造変化に基づくものではなく亜鉛錯体と吸着分子間の水素結合形成に伴う電子移動という新しいメカニズムに基づくものであることを明らかにした。これは本課題の目的の一つである「新規な電子―プロトン相関型機能物性の開拓」を達成するものであり、期待以上の研究の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
さらなる「新規な電子―プロトン相関型機能物性の開拓」として、結晶中でのプロトンダイナミクスに起因した電子機能性変調を目指す。具体的には、対称型錯体から非対称型錯体を合成することで、これまでの1,2次元的な水素結合ネットワーク構造の形成から水素結合プロトンの移動に伴って電子状態が変化しうる0次元的な水素結合構造を持つ結晶の開発を行う。また、[OHO]型水素結合ではプロトンダイナミクスを達成できない可能性を鑑み、水素結合形成部位として水酸基ではなくアミノ基やアミン部位を有する新規錯体・結晶の合成および物性測定を行う予定である。
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