本年度、πおよびd電子と水素結合が相関した電子物性開拓に向け、(i)水素結合性部位を持つ金属ジチオレン錯体を基盤とした新規結晶と(ii)メトキシベンゼン部位を持つ亜鉛ジチオレン錯体結晶のさらなる光機能性開拓について研究を行った。 (i) 昨年度取り組んだヒドロキシ基を持つニッケルジチオレン錯体の脱プロトン化に伴う磁性変化に関する成果を論文として報告した。また、新たな水素結合部としてアミン・イミン構造を持つ錯体の合成にも取り組み、数種類の結晶において[NHN]型の錯体間水素結合を形成していることを見出した。 (ii) 後者では、昨年度に報告した水素結合を介した電子移動に基づくベイポクロミズムを示す結晶において、その結晶構造・光学特性の温度・溶媒分子・重水素溶媒に対する依存性を調査した。温度・重水素溶媒置換に関してはその構造・光学機能性に有意な変化を観測できなかったが、すでにベイポクロミズムが観測されることがわかっている水とメタノール以外の蒸気(エタノール、アセトン、アセトニトリルなど)に対しても先と同様の光学特性の変化が観測され、水素結合以外のさらに弱い分子間相互作用でも光学特性が変化可能なことを示唆する結果を得ることに成功した。 さらに、上記の物質開発の過程で見いだされたジエトキシベンゼン部位を持つ金ジチオレン錯体結晶の物性調査も行った。この結晶では、単一成分分子性導体では珍しい2次元的な分子配列・電子構造が明らかとなり、さらに強相関電子系では報告例が非常に限られている傾角反強磁性が発現することを見出した。以上、当該研究者はπおよびd電子と水素結合が相関した電子機能物性の開拓研究を昨年度に加えてさらに展開した。
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