銅酸化物高温超伝導体の未解決問題の中で最も重要な問題として、「母物質であるモット絶縁体中の反強磁性電子と、キャリアを注入することで発現する高温超伝導電子との関係」が挙げられます。銅酸化物高温超伝導体は母物質であるモット絶縁体にキャリア注入することで超伝導が発現します。そのため、「反強磁性の中で超伝導電子が共存できるのか」、それとも「反強磁性を乱さなければ超伝導電子は形成されないのか」、という論争が生じました。この論争はそれらのフェルミ面の特徴から「小さなフェルミ面」と「大きなフェルミ面」問題と呼ばれます。しかし、先行研究では、「小さなフェルミ面」とも「大きなフェルミ面」とも異なる、アーク状のフェルミ面が観測されており、どちらが正しいか分かっておりませんでした。 そこで本研究で我々は、構造的に平らでかつ電荷分布が均一で綺麗な超伝導結晶面を内部にもつ5層型の銅酸化物高温超伝導体に着目し、高いエネルギー分解能を持つレーザーを用いた角度分解光電子分光による電子構造の精密観測と強い磁場を用いた量子振動測定により、反強磁性の中で高温超伝導電子が共存していることを観測しました。これらの結果はこれまでの多くの先行研究で見せていた理論と実験間、または異なる手法の実験間での食い違いの結果とは異なり、非常に良い実験結果の一致を見せています。当該年度ではこの研究成果について、世界的に非常に権威のある学術誌であるScienceに特別研究員が第一著者の論文が掲載されました。またこの研究成果は日刊工業新聞「銅酸化物高温超電導体、反強磁性を形成 東大など解明」(2020/10/7 05:00)に掲載されました。また、令和2年度の研究計画である、多層型銅酸化物高温超伝導体において、広範囲のドープ領域での電子構造の観測から高温超伝導機構の解明を目指し、オゾン・真空アニール機構の設計、建設を行いました。
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