ガラスの特殊加工法として固体イオン交換法が存在する.この手法は,高温(350 ℃程度)に加熱したガラスと固体金属を接触させ,金属側を陽極とした電圧を印加することで,ガラスに金属イオンを添加する手法である.また,本手法でイオンを添加したガラスに対し,今度はガラス側を陽極とした電圧を印加すると,ガラス内でイオンが還元し,樹状の金属析出物が形成されることが知られている.しかし,このガラス内金属析出現象が発見されたのは近年のことであり,まだメカニズム等が十分に明らかになっておらず,その工学的応用も十分に検討されていない. そこで本研究では,金属析出現象のメカニズムの詳細を明らかにし,その工学的応用を検討することを目的とした.金属析出現象は,ガラス内に添加した金属イオンの還元反応によって生じることが明らかになっているが,その成長速度や成長方向に関する研究は十分に行われていない.これは,析出挙動の動的観察が行われていないためである. そこで本研究では,実験に使用する真空チャンバと実験手法を改善し,ガラス内の析出挙動の動的観察に初めて成功した.また,本観察手法と絶縁破壊モデルと呼ばれる数値解析モデルを利用することで,析出挙動とガラス内の電場の影響について明らかにした.本解析により,初期の電場形状によって生じる最終的な析出物の形状を予測することが可能となった.また,析出挙動の温度場の影響を検討するため,レーザ加熱によってガラスの局所加熱を行った.その結果,レーザ加熱を併用することで,析出位置を簡易的に制御することが可能となった.今後はさらに微小な領域での析出挙動の観察や,析出物の形状制御について検討する.
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