研究課題
歯周病は歯を支持する歯周組織が破壊される炎症性疾患として知られている。平成28年の歯科疾患実態調査(厚生労働省)では前回実施時(平成23年)と比較し、すべての年代で歯周病の有病率が増加していることが明らかとなったことから、我が国において歯周病は歯科医学上極めて重要な疾患であると言える。一方、歯周病の原因は主に歯周病原細菌感染による宿主の免疫応答であるが、近年数多くの報告において歯周病は他の様々な全身疾患(糖尿病、肥満等)の増悪因子となることが示唆されている。また歯周病は糖代謝において重要な役割を果たす臓器である肝臓の脂肪化を増悪させる因子の一つでもあることが明らかとなっているが、他の糖代謝に関わる臓器との関連については報告が乏しいのが現状であった。当該研究においては、体重の約40%を占める骨格筋に着目した。インスリン依存的に糖の取り込み・代謝を行う組織である骨格筋に注目した報告は乏しく、歯周病の糖尿病の病態悪化において骨格筋との臓器特異的な関連性が予想された。ヒトを対象とした臨床研究では、メタボリックシンドローム患者において筋組織内脂肪マーカーと歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)の血清抗体値が有意に相関していることが分かった。またPgの嚥下感染モデルマウスを作製し、骨格筋における糖代謝への影響を調査した。糖負荷試験及びインスリン負荷試験を行ったところ、Pg投与群においては耐糖能異常及びインスリン抵抗性が惹起されていることが分かった。また骨格筋は姿勢の維持や持久力を担う遅筋と、瞬発力を担う速筋に大別されるが、代表的な遅筋であるヒラメ筋と代表的な速筋である前脛骨筋を採取しq-PCR法にてmRNAの発現を調査したところ、Tnf-αなどの炎症性サイトカイン遺伝子発現が上昇していることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
ヒト臨床研究によってPgが骨格筋の代謝異常に影響を与えている可能性が示唆され、モデルマウスの作出に至った。またPgの投与によりモデルマウスの骨格筋の炎症関連遺伝子の発現が亢進していることが明らかとなった。
血中のグルコースは臓器に取り込まれたのちエネルギー源として利用されるが、細胞内へのグルコース取り込み量を測定することにより、細胞そのものの糖取り込み能力や糖消費量に関する情報が得られる。Pgの投与により骨格筋の代謝異常が引き起こされた可能性があるが、糖の取り込みにどのような影響を与えているかは明らかでないため、この組織内に取り込まれた糖を評価する系を確立し、歯周病原細菌感染が骨格筋の糖取り込みに与える影響を調査したいと考えている。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
Frontiers in cell and developmental biology
巻: 8 ページ: 1-14
10.3389/fcell.2020.00459
The FASEB Journal
巻: 34 ページ: 12877-12893
10.1096/fj.202001032R