研究課題/領域番号 |
20J13067
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
板井 駿 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症反応再現 / 組織工学 / in vitro組織モデル / 血管組織 / 皮膚組織 / コラーゲン / アレルギー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,灌流共培養可能なコラーゲンチューブ用いて,組織化させた血管の周囲に免疫細胞及び表皮細胞を培養することで血管内包皮膚炎組織モデルを構築し,アレルギー反応に代表される炎症反応を生体外で再現することである. 炎症反応の高いレベルでの再現を達成するためには,血管組織において,細胞レベルのみならず組織レベルでのマクロな炎症応答の模倣が求められる.令和2年度はこれを達成するため,私がこれまでに開発してきたコラーゲンチューブデバイスを改良することで,細胞・組織レベル双方での血管の免疫化学応答の再現を達成した.さらに薬剤流入による薬効試験の模倣にも成功したことで,目指している炎症病理モデルとしての有用性を示した. 具体的には,コラーゲンとシリコーンチューブ,さらにガラス管が直接接合されたデバイスを構築することで,炎症反応や薬剤流入時のデバイスの安定性を飛躍的に向上させた.また,数日の培養により安定的に血管組織の構築(ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を使用)がなされ,デバイスの寸法精度も変動係数3.3%と非常に高いことが確認された. 炎症反応の再現は,アトピー性皮膚炎の炎症メディエータであるヒスタミンを用いて行った.ヒスタミンに曝露された血管組織は,細胞に発生した力学的な収縮力により組織レベルでマクロな収縮を起こし,生体内と近い挙動を示した.また,組織・細胞双方のスケールでの収縮が起きたことにより,チューブ内壁に占める細胞面積はほとんど変化しておらず,従来報告されている固定された培養足場と比較しても有意差が認められた(p < 0.01)).最後に,抗ヒスタミン薬の成分でもあるオロパタジンを血管モデル内部に流入させ,薬剤反応試験を行った.その結果オロパタジンの流入によって,血管収縮が抑制され,ヒスタミンによる炎症反応を阻害できることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は,コロナウイルスの大流行による緊急事態宣言等の影響で,6月頃まではほぼ実験を行うことができず,その後も入構人数や時間帯の制限が厳しい状態が長く続いたため,実験時間の確保に苦労した.加えて,私の研究は理論よりも培養等の実験が主体となるものであり難しいマネジメントを迫られてた.そのため上半期は実験予定がかなり遅延してしまったが,代わりに医学的知見をさらに深め,炎症応答の際の細胞間結合力等に関する解析シミュレーション等にも着手することで,研究計画とは少し別の路線から進捗を産むことに成功した. 秋以降はようやくある程度の実験時間を確保できるようになった.この際,上記の知見や解析が大いに役に立ち,血管組織の炎症応答再現を当初の予定よりかなり厳密なレベルで評価することが可能となった.これにより限られた実験時間の中でも効率的に概ね予定通りに実験を進捗させ,今年度の目標であったデバイスの改良および血管組織での炎症反応の模擬,さらには薬剤反応の模倣を達成した. これらの研究成果については,国内学会で1件の発表を行った他,権威ある国際学会のひとつであるTransducers 2021にも投稿しており,審査中である.また,論文執筆も大方完了し,近日投稿予定であるなど,概ね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,細胞・組織レベル双方での血管の免疫化学応答の再現を達成し,開発した血管モデルの高い生体模倣性が示された.さらに薬剤流入による薬効試験の模倣にも成功したことで,目指している炎症病理モデルとしての有用性を示した.令和3年度はこの組織と周囲の細胞を共培養することでアトピー性皮膚炎モデルの構築を目指し,血管モデルに用いたものと同様の曝露試験および薬剤試験で評価を行う. 具体的には,免疫系細胞及び皮膚組織細胞を血管組織周囲に共培養することで,組織の形成を確認する.この際,共培養により組織形成や機能発現へ影響が出ることが予想されるため,共培養を開始するタイミング(封入前にある程度組織化させる)等の条件の制御を行い,免疫染色や透過性試験を行うことで評価・検討を行う. 組織モデル構築後は,実際に炎症反応の再現を行う.具体的には,まず炎症メディエータを直接血管内皮組織に作用させることで,内皮細胞のタイト結合の弛緩による血漿漏出等の生化学反応の再現を行う.この際,染色による細胞状態の確認に加え,視覚的な現象の確認を目指す.その後,表皮組織に対する掻破やアレルゲン曝露を起点に,肥満細胞からのメディエータ放出,そしてメディエータに対する血管の応答による浮腫形成までの全炎症過程の再現を行う.この際,細胞濃度や培養日数,環境など,膨大なパラメータが関与するため,評価及び検討を繰り返し現象の再現を目指す.
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