惑星形成の標準モデルによると、微惑星は原始惑星系円盤中の乱流によって駆動されるダスト粒子の衝突合体によって形成されたと考えられている。そのため、乱流中のダスト粒子の振る舞い、および、乱流の普遍性を解明することは重要である。本年度は、(1)乱流中の様々なスケールの流れ構造と粒子運動の関係の定量化、(2)天文分野でしばしば用いられる等温を仮定した圧縮性乱流場の解析を行った。 (1)では、慣性を持つ粒子を伴う非圧縮性乱流の直接数値計算(DNS)で得られたデータを解析した。速度場を粗視化することで様々なスケールの流れ構造を抽出したところ、粗視化された渦領域では慣性の大きい粒子の存在確率が小さいことが示された。また、粗視化された渦周りの粒子数密度を調べたところ、渦周りで低密度領域を形成する粒子の慣性は粗視化度合いの増加に伴って大きくなることがわかった。以上の結果は、粒子は主にその慣性の大きさに対応するスケールの渦によって排出されるという共鳴条件の仮説が粗視化された渦において成立することを示したものであり、乱流中の様々なスケールの渦構造と粒子運動の関係を示す重要な知見を与えるものであると考えられる。 (2)では、スーパーコンピュータ「富岳」を用いることで、等温を仮定した圧縮性乱流の大規模DNSを実施し、得られた統計量を非圧縮性乱流の統計量と比較した。その結果、圧縮性乱流の速度場のソレノイダル成分で計算されるエネルギースペクトルおよび規格化されたエネルギー散逸率のソレノイダル成分は、非圧縮性乱流場のエネルギースペクトルおよび規格化されたエネルギー散逸率とそれぞれよく一致することがわかった。これは、高レイノルズ数における圧縮性乱流場の普遍性に対して重要な知見を与えるものであると考えられる。一方、乱流場の圧縮成分の普遍性を探究するにはさらに高いレイノルズ数を実現する必要があり、今後の課題である。
|