本研究の目的は、超短パルスレーザーを用いてハイドロゲル内部に作製した金属微細構造の生体用光学センシングデバイスへの展開である。同目的に向けて、ハイドロゲルは内部への金属細線作製後も可視域における透過性を維持させる必要があることから、本年度はハイドロゲル内部において局所的に金属イオンの還元を促進させることによる金属微細構造の作製を行った。同時に、生成金属細線への導電性付与による新展開を目指すため、高効率な金属イオンの還元促進の誘起による高密度な金属細線の作製を試みた。還元剤として蛍光分子FITC-dextranをPEGDAゲルに含有させることで、レーザーパルス集光部で金属イオンの光還元が促進されることが明らかとなった。酸化反応をもたらす蛍光分子の光退色反応が誘起され、金属イオンの還元が促されたと推察される。同結果は、蛍光分子Rhodamine110を用いた実験でも得られた。さらに、FITC-dextranを用いた実験では、集光部以外の領域で金属イオンの還元が抑制された。アニオン性FITC-dextranの持つ負電荷が金属イオンに配位し、還元される金属イオン数が減少したためと考えられる。以上の結果から、局所的な金属イオンの還元誘起による高密度な金属微細構造作製を実証し、光学センシングデバイスへの展開に加え導電性金属構造の作製にも貢献できる技術を獲得した。次段階として、PEGDAとpH応答性PAAゲルの混合ゲルを異なるpH又は濃度の溶液へ浸漬させ、光学特性のリアルタイムセンシングを行った。純水、グルコース溶液、リン酸緩衝生理食塩水を溶媒として用いることで、ハイドロゲルの伸縮に伴い金微細周期構造の線幅および周期間隔が変化し、吸光度ピークのシフトが観測された。以上より、ハイドロゲルの伸縮特性を活用することで、生成金細線構造が外部環境の光学センシングに活用可能であることを実験実証した。
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