研究課題/領域番号 |
20J13207
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 成実 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 老化細胞 / 加齢性疾患 / 一細胞解析 |
研究実績の概要 |
不可逆的な細胞周期停止や炎症性の生理活性物質を分泌する老化関連分泌現象(SASP)の発現をはじめとする様々な機能を有している老化細胞だが、個体内におけるその蓄積がどの機能を介して生体に影響を与えているのかについては未だ多くが不明である。一方で、近年の老化細胞を標的とするアプローチは従来の方法では予防・治療が困難であった加齢性疾病や個体老化に対して有効であることが示唆され、人の健康や寿命延長という課題の探求には、生体内の老化細胞が組織・臓器に及ぼす影響を詳細な制御機構を含め研究することは必須であると考えられるようになった。 本研究ではSASPの個体老化・加齢性疾病発症における役割やそのメカニズムの詳細を解明する事を目的とし、代表的な加齢性疾患の発症モデルの構築とSASP 不全マウスの樹立・解析を行った。特に老化細胞の蓄積が病態発症に深く関与すると報告されている動脈硬化症や糖代謝、心・腎不全を中心にSASPの個体老化・寿命制御での役割の定量化を試みている。一年目では個体内で老化マーカーp16の陽性細胞の蛍光標識を行い、動脈硬化症や慢性腎臓病におけるp16陽性老化細胞の動態や役割の解明を目指すため疾患発症のモデルを構築した。一方でマウス大動脈におけるp16陽性老化細胞の検出や作成した遺伝子改変マウスの個体内におけるミュータント遺伝子発現確認など、予定している一細胞RNAseq解析の技術面での問題が浮上したためより詳細な条件検討が必要となった。生体内におけるSASPの役割を明らかにし、老化細胞が織りなす複雑な生命現象の分子基盤の解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウィルス感染拡大の影響を受け数ヶ月に渡り研究規模の縮小を行う必要があったが、研究目標や手法への影響は少なく、概ね研究方針を変更せず取り組むことができた。本研究員は作成した遺伝子改変マウスでp16陽性細胞の蛍光標識を行い、動脈硬化症や慢性腎臓病におけるp16陽性老化細胞の動態や役割の解明を目指すため疾患発症のモデルの構築と確認をした。慢性腎臓病発症にはアデニン添加餌が用いられ、切片解析、蛍光活性化セルソーティング、そしてマウスの血液・尿検査により腎機能不全と疾患発症モデルに従って処理された腎臓の髄質におけるp16陽性細胞の分布と増加が認められた。 一方で動脈硬化症解析にて微小構造におけるp16陽性老化細胞の検出、作成した遺伝子改変マウスの個体内におけるミュータント遺伝子発現確認など、技術面の問題が浮上したためより詳細な条件検討が必要となった。特に動脈硬化症モデルマウスとCre/loxPシステムによるp16陽性老化細胞の蛍光標識マウスの交配により得られた個体の心臓大動脈では、明らかに動脈硬化症様の症状が見られたにも関わらず細胞数や組織自体の形状が原因で一細胞RNAseq解析を行うことはできなかった。上記の課題の解決が急務である。
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今後の研究の推進方策 |
加齢性疾患と細胞老化との解析を下記のように行う。所属研究室の現有設備で解析可能な動脈硬化巣におけるp16陽性老化細胞の細胞種や局在の免疫染色・共焦点顕微鏡観察、蛍光強度を利用したFACSによる細胞の単離・RNAseq解析、泡沫細胞・マクロファージの形態異常やプラーク形成の電子顕微鏡・共焦点顕微鏡観察、病理切片・寿命の解析、そして一細胞RNAseq解析を実施する予定である。また、SASPの糖代謝・脳機能低下や心・腎不全に及ぼす影響の解析を見るため樹立したSASP不全マウスで疾患の発症モデルを検証し、各臓器で先述された顕微鏡観察を行う予定である。慢性腎臓病における老化細胞の動態についての探究では、アデニン添加飼料を一定期間マウスに与えることで慢性腎臓病が誘導できる実験モデルで先述と同様にp16陽性老化細胞を標的とした蛍光フローサイトメトリーや一細胞RNAseq解析を行い疾病の誘導、進行、回復における老化細胞の関与を検討する。直近では野生型マウスにて疾患の発症誘導による実験系の条件検討を行なっている。
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