本研究ではATP7 ファミリーと ATOX1 との複合体の構造を決定することで ATP7 ファミリーに対する ATOX1 からの銅イオンの受け渡し機構を明らかにし、ATP7 ファミリーの構造を銅イオン存在下で輸送過程の複数の状態で決定し、得られた構造をもとに 脂質と水分子を含む生体内の条件を再現した全原子分子動力学シミュレーション (MD シミュレーション を行うことで銅イオンの輸送経路・輸送機構を明らかにすることを目標とする。 ATP7 ファミリーの構造決定に先駆けて、発現方法・精製方法の検討およびグリッド作成方法の検討を行った。その結果、ヒト由来の ATP7A/7B について構造決定に十分な純度・収量での精製方法の確立に成功し、クライオ電子顕微鏡での構造決定に向けたグリッドの調整方法の確立に成功した。しかしながら、調整したグリッドからは構造決定に十分な二次元投影像および二次元平均像を得ることはできなかった。原因としては、試料の均一性が 不十分であった点・精製試料の一部が凝集して二次元構造を維持していなかった点が挙げられる。これらの問題を解決するために、今後はタンパク試料の発現・精製方法の改善及びグリッド作成方法の最適化を行った。具体的には、凝集体を形成しているタンパク質の量を減らすために発現・精製方法の改善を行う。具体的には発現ホストを現在のHEK293SからGNT1を欠失 していないHEK293Fなどに変更することでより生体内に近い糖鎖修飾が施されたタンパク質の発現を行い、基質存在下で精製を行うことで試料の安定化を試みた。しかしながら、試料の付近に次正を解決するに至らず、構造決定に十分な二次元像を得ることはできなかった。本研究で得られたATP7ファミリーの発現・精製方法は今後ATP7ファミリーの機能・構造解析を進めていく大きな糧となる重要な成果である。
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