本年度は、ポリヘドラルリンクに基づくトポロジー分子構造の拡張に向けて、新規ペプチド配位子の合成と錯体形成、形成した錯体の単結晶化による構造解析に取り組んだ。特に、脆弱な骨格を持つ錯体の単結晶X線構造解析において、共同研究により新手法を開発し、高エネルギー加速器研究機構における放射光ビームラインを利用して構造を明らかにすることに成功した。新手法は、従来タンパク質の単結晶X線構造解析のために開発中だった技術に基づいている。結晶を生成させる数十マクロリットルの大きさのウェルを100個程度有するプレートを用いて、生成させた結晶を取り出すことなく、そのままプレートに放射光を照射することで脆弱な結晶の分子構造を明らかにできる。結晶の性質上、得られるデータ点の個数がタンパク質場合と比べて明らかに少ないために、本技術を錯体結晶に適用可能かどうかは不透明だった。本実験成果により、本技術の適用可能性が明らかとなった。今後、論文発表や、共同研究の推進によって、脆弱な骨格をもつ錯体の単結晶X線構造解析のための新手法として確立する見込みである。一方で、キラル磁性の発現に対しては、ほとんど進展が得られなかった。昨年度の準備期間において新規錯体の合成確認を行なっているが、磁性の調査のために必要な単結晶条件の検討において、更なる探索が必要である。また、ドイツの共同研究先への渡航、及び物性調査が必要であったが、COVID-19蔓延の影響により渡航は断念された。
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