研究課題/領域番号 |
20J13436
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平井 健士 名古屋大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 車車間・歩車間通信 / 輻輳制御 / NOMA / SIC / パケット中継 |
研究実績の概要 |
今年度は、安全な道路交通を担う車車間・歩車間通信(V2X)を利用した衝突事故警告システムを実現するべく、V2Xの輻輳を緩和し、多数の車両・歩行者(端末)を収容するための電力軸重畳通信(NOMA)に関する2つの研究課題を進め、3本の査読あり論文誌に採択された。加えて、発展的な研究にも挑戦し、国内学会発表1件及び査読あり国際学会発表1件の研究成果を挙げた。 1つ目の研究課題は、V2X向けのNOMA利用型パケット中継の検討である。本手法では、自身の位置情報や重畳電力比によって算出された確率に基づいて中継端末を選択することで、自律分散制御のV2XでもNOMA利用型中継の効果を高めることができる。評価の結果、提案手法は従来より50%も多くの端末を収容できることが明らかになり、この成果を査読あり論文誌IEEE Accessにて発表した。 2つ目の研究課題は、NOMA利用型並列転送の検討である。本研究を進めるにあたって、まず、NOMAを利用しない従来のV2Xの性能を明らかにし、その成果を査読あり論文誌MDPI Sensorsで発表した。次に、この結果に基づいて、複数の端末によるNOMA利用型並列送信のためのスロット選択手法を提案した。本手法では、変調方式を工夫したり、パケットを冗長に送信したりすることで、NOMAによる受信成功率を高めることができる。評価の結果、提案手法は、従来よりも38%も多くの端末を収容することに成功した。この研究成果を論文にまとめて、査読あり論文誌IEEE Accessで発表した。 加えて、発展的な研究として、NOMA利用型並列転送手法における不完全な干渉除去時の性能評価を電子情報通信学会IN研究会で発表した。また、拡散コードにより重畳するSCMAを適用したV2Xの性能評価にも挑戦し、その成果を査読あり国際会議IEEE VTC2021-Springにて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、本来計画していたNOMA利用型V2Xのための2つの機能の開発に関する研究が順調に進み、その成果が3本の査読あり論文誌に採録された上、当該研究課題の発展となる研究課題にも挑戦し、国内外の学会にて1件ずつ研究発表をすることができた。 まず、NOMA利用型パケット中継手法について、詳細なプロトコルデザイン及び基礎的な性能評価に加えて、ボローニャ実データを利用したより現実的な端末配置環境での効果まで評価することができた。これらの結果をまとめた論文が、査読あり論文誌IEEE Accessに採択され、計画時に予定していた目標を達成したと言える。 また、NOMA利用型並列転送手法についても、手法のデザイン及び基礎評価を実施した上、ボローニャ実データによる現実的な性能まで評価することができた。これらの結果をまとめて、査読あり論文誌IEEE Accessにて発表し、当初の計画通りの進めることができた。さらに、本手法を検討する予備調査として実施していた従来V2X技術の性能評価をした研究内容も論文誌MDPI Sensorsに採録され、当初の予定よりも多くの論文を発表できたと言える。 さらに、V2XのためのNOMAに関連する発展的な研究内容にも取り組むことができた。NOMA利用型並列転送手法の不完全な干渉除去モデルを検討し、より実用的な提案手法の効果も明らかにすることができた。加えて、他の重畳手法であるSCMAをV2Xに適用する研究にまで発展させた。本研究は、令和元年度の米国ラトガース大学WINLABへの研究留学で進めていた研究課題であり、WINLABと連携して研究を進めた。本研究では、V2XでSCMAを利用した際に起こるであろうエラー伝搬の影響を分析し、その悪影響を評価した。このように、発展的な研究内容も国内外の学会で発表することができたため、当初の予定よりも研究が進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、今年度得られた研究成果及び知見を活かして、本研究課題の総括的な研究及び発展的な研究課題に挑戦していく予定である。以下、今後の研究予定について簡単に紹介する。 まず、当初の予定通り、提案した2つの手法(NOMA利用型パケット中継手法及びNOMA利用型並列転送手法)を機能として備えたNOMA利用型V2Xの効果を多角的に調査し、本研究課題を総括することを検討している。特に、今年度の検討を踏まえて、2つの機能の相乗効果を狙う枠組みを検討していく。例えば、NOMA利用型並列転送手法の効果により、従来のV2Xよりも直接パケットの受信品質を高く保つことができるため、今年度検討してきた手法よりも中継に割り振る電力を大きくすることができる。その結果、中継の効果をより高めることができるため、2つの機能を利用する相乗効果が狙える。このような特性を踏まえて、パラメータの調整等を行う。また、前年度でも調査したように、ボローニャ実データを利用した現実的な性能を評価したり、前年度の発展的な研究である不完全な干渉除去モデルを検討した際の性能も評価したりして、提案手法の効果を総合的に見積もる。このような分析・評価を通して、提案手法全体の性能・特性を明らかにして、国内外の学会または査読あり論文誌での発表を目指す。 加えて、今年度の研究を通して、新たな知見及び着想を得たため、上記の2つの手法をそれぞれ発展させることも計画している。これらの研究を査読あり国際会議に投稿することを予定している。
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