研究課題/領域番号 |
20J13490
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
水野 理央 香川大学, 農学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | サスライアリ亜科 / アリ捕食 / コロニー構成 / コロニーサイズ / カスト二型 / カスト特殊化 / 採餌行動 / 自然史 |
研究実績の概要 |
タイ北部産のクビレハリアリ類Cerapachys sulcinodis種群の自然史を報告した。この種群は,クビレハリアリ類としては例外的にコロニーあたり働きアリ数が多いこと(最大1850個体),多女王性であること(最大19個体),女王アリは翅を持たず,巣分かれによってコロニーが創設されること,女王アリの形態は働きアリのそれとは異なり,ある程度顕著なカスト特殊化が見られることなどの点で,クビレハリアリ類の他種でとは異なっていた。これらの特徴の一部は,軍隊アリ類の生活史形質と一致あるいは類似するところがあり,本種群は軍隊アリ進化の萌芽的段階にあるという点で興味深い。また,タイ北部には女王アリの形態によって区別可能なCerapachys sulcinodis種群の2種が同所的に生息していることがわかったが,両種の社会構造に顕著な差異は見られなかった。 クビレハリアリ類の他属・他種の社会構造を報告した文献は多くはないが,過去の文献や筆者らの知見を総合すると,クビレハリアリ類では一般的にカスト形態差はより目立たないものが多く,これらの種ではコロニーあたりの働きアリ数もほとんどの場合100個体未満であるようだった。これらの点と,軍隊アリの社会構造を検討すると,概して「コロニーあたりの働きアリ個体数」,「女王アリカストの形態的特殊化の程度」を基準として,各種の社会構造を軍隊アリ進化のグラデーションの中に位置付けることができると思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はコロナ禍の影響により,当初計画していた海外調査を実施できなかったため,野外でのコロニーデータが取得できなかった。また,同様に材料が取得できなかったことに起因して,当初計画していた室内実験の実施も断念した。また,コロナ禍の収束が見込めない状況で,2021年度は特別研究員の採用を一時中断し,科研費も翌年に繰り越した。 その一方で,以前に取得し,実験室で飼育していたCerapachys, Lioponera, Parasysciaなどのクビレハリアリ類各種の詳細な行動観察によって,これまでに知られていなかった新奇な巣内行動など,その自然史知見は着々と集積されつつある。また,以前に取得した野外データと,その標本の測定を中心として,Cerapachys sulcinodis種群の社会構造等について論文を執筆し,学術誌Insectes Sociauxに受理された。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍に伴う社会的混乱の収束を期待し,2021年度は特別研究員の採用を中断し,同年度の科研費は2022年度に繰越す。感染拡大の波の様子に応じて,可能な範囲で予定していた海外調査を実施する。 引き続き,Cerapachys, Lioponera, Parasysciaなどの飼育下での行動観察を行う。 また,以前に取得したデータは随時論文として発表する。
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