研究課題
新規ニッチへの進出は、生物を新たな選択圧に晒すことで、急速な適応進化を誘導しうる。しかし同時に、新規ニッチへの進出は、集団の遺伝的多様性を減少させることで選択への応答能を低下させうることから適応進化が起こりにくいと考えられる。従って、新規ニッチへの進出に際して適応進化が生じるのか、また、適応進化が生じた場合、どのようなメカニズムで適応進化が生じるのかについては、未だ多くが解明されていない。 我々は、2011年の津波で形成された岩手県大槌町の旧市街地に位置する新規トゲウオ集団を用いて、生息環境に応じて急速な採餌形質(鰓耙数)の多様化が生じていることを観測してきた。本課題では、イトヨとニホンイトヨの種間交雑によって遺伝的多様性が増し、それに対して選択圧が働くことによって急速な適応進化が生じたとする仮説を立て、検証している。汽水水路と淡水池に設置した閉鎖実験生簀に雑種を導入し、6ヶ月後回収したところ、環境間で鰓耙数の分化がみられた。本結果は、環境に応じた鰓耙数の分化が1世代内で見られる可能性を示唆している。次いで、新規集団の野外採集個体について、集団形成直後(2012年)から2019年までの鰓耙数を測定したところ、2015年以降は環境に応じた分化が消失していた。これは1) 2015年以降の防潮堤工事による環境の撹乱によって選択圧が変わったため、2)撹乱の影響で大きな遺伝的浮動が作用し、分化パタンが消失したため、もしくは3) 2014年にみられた環境間の分化は創始者効果や遺伝的浮動による偶然であった為、が考えられる。防潮堤工事が終了した2021年以降、鰓耙数が再分化するのかを検証することで、これらの仮説が検証できる。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2022 2021
すべて 学会発表 (3件)