研究課題/領域番号 |
20J13580
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川口 航平 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | トマト / 接ぎ木 / 二次代謝産物 / MYB転写因子 / メタボローム解析 / トランスクリプトーム解析 |
研究実績の概要 |
接ぎ木の接着に関与することが示唆されている二次代謝産物およびその生合成のマスターレギュレーターであるMYB転写因子の機能解析を行った.MYB転写因子が接ぎ木のどの接着過程(カルス化,細胞壁再構築,細胞癒着,原形質連絡,維管束再構築)に機能し,どのようなメカニズムで接ぎ木接着に関与するかを解明するために,MYB転写因子の発現抑制体の顕微鏡観察,カルス形成遺伝子の発現解析,RNA-seq解析を実施した. MYB転写因子がどのように接ぎ木の接着に関与するかを調べるために,MYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木接着部の顕微鏡観察を実施した。その結果,Wild typeと比較して,MYB転写因子の発現抑制体では,カルス形成の遅延が確認された.また,MYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木接着部において,カルス形成に関与することが知られているWIND遺伝子の発現解析を行った。その結果,Wild typeと比較して,MYB転写因子の発現抑制体では,SlWIND1,2遺伝子の発現量が減少していた.これらの結果から,MYB転写因子が二次代謝産物の生合成およびカルス形成遺伝子の発現を介して,カルス形成を制御することで,接ぎ木の成立に関与することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は新型コロナウィルス感染症拡大による研究機関への滞在時間の制限により,申請書の年次計画から変更して実施した.現在は,「二次代謝産物合成のマスターレギュレーターであるMYB転写因子が,接ぎ木のどの接着過程(カルス化,細胞壁再構築,細胞癒着,原形質連絡,維管束再構築)に機能し,どのようなメカニズムで接ぎ木接着に関与するか?」を解明することに焦点を当て,研究を行っている. 今年度は,MYB転写因子の発現抑制体の顕微鏡観察,カルス形成遺伝子の発現解析,RNA-seq解析を実施した.これまでに,MYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木試験を行ったところ,Wild typeと比較して,接ぎ木後の穂木の葉の展開に差が見られ,接ぎ木の接着力が失われたことが示唆されている.MYB転写因子がどのように接ぎ木の接着に関与するかを調べるために,MYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木接着部の顕微鏡観察を実施した.その結果,Wild typeと比較して,MYB転写因子の発現抑制体では,カルス形成の遅延が確認された. MYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木接着部において,カルス形成に関与することが知られているWIND遺伝子の発現解析を行った.Wild typeと比較して,MYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木部では,SlWIND1,2遺伝子の発現量が減少していた.これらの結果から,MYB転写因子が二次代謝産物の生合成およびカルス形成遺伝子の発現を介して,カルス形成を制御することで,接ぎ木の成立に関与することを示唆された。 さらに,MYB転写因子がどのような遺伝子を介して,接ぎ木接着に関与するかを解明するために,RNA-seq解析を行った.サンプルのライブラリー調製およびサンプル送付は終了しており,現在は次世代シーケンサーによる受託解析を依頼し,2021年4月下旬には解析結果が届く予定である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,今年度に送付した接ぎ木経時サンプルのシーケンスデータを用いて,RNA-seq解析を行うことで,接ぎ木経時的にどのような遺伝子が発現し,接ぎ木が成立するのかを明らかにする.これまでにトマトのような商用園芸作物の接ぎ木部の経時サンプルでRNA-seq解析を行った例はなく,トマトの接ぎ木の分子メカニズムの解明に大きく貢献できると考えている.さらに,これらは来年度に実施予定である接ぎ木部のメタボローム解析やMYB転写因子発現抑制体のRNA-seq解析の接ぎ木サンプルのステージを決定する上で非常に重要な情報となる. また,MYB転写因子の発現抑制体のRNA-seq解析により,MYB転写因子がどのような遺伝子を介して,接ぎ木接着に関与するかを解明する.今年度は,カルス形成に関わるSlWIND1,2がMYB転写因子の発現抑制体の接ぎ木部で発現が減少しており,MYB転写因子がこれらの遺伝子を直接的,もしくは間接的に制御していることが示唆された.これらの以外のカルス形成に関わる遺伝子,二次代謝産物生合成に関与する遺伝子,二次代謝産物の前駆体の生合成に関与する遺伝子の発現などを,RNA-seq解析により,網羅的に解析する. さらに,MYB転写因子の発現抑制体のメタボローム解析により,MYB転写因子がどのような代謝物の生合成を制御しているかを解明する. 以上の解析から,「二次代謝産物合成のマスターレギュレーターであるMYB転写因子が,接ぎ木のどの接着過程(カルス化,細胞壁再構築,細胞癒着,原形質連絡,維管束再構築)に機能し,どのようなメカニズムで接ぎ木接着に関与するか?」を解明する.
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