外生菌根菌の分布や群集組成に対する宿主の影響を明らかにすることを目的に,以下の2点について調査を行った。 (1) 外生菌根菌と宿主樹種の共生可能性に対する過去の分布パターンの相違の影響 外生菌根菌の宿主範囲は,これまで宿主の系統関係をもとに記述されてきた。本研究では,「宿主の系統関係だけでなく,宿主と外生菌根菌種の間での,過去の分布パターンの相違も共生可能性に影響する」という仮説を立て,接種実験により検証した。日本在来樹種であるコナラ・スダジイ・クロマツと,外来樹種であるユーカリ属2種に対し,京都市吉田山のコナラ樹下で採取した外生菌根菌の接種を行った結果,感染率や感染種数は,コナラ・スダジイで最も高くクロマツで中程度,ユーカリ属2種で最も低くなるという結果が得られた。ユーカリ属2種よりも,コナラ・スダジイ・クロマツで感染率・感染種数が高いという結果は,宿主の系統関係だけでは説明ができず,本研究の仮説を支持するものと考えられる。本仮説から,外生菌根菌は,異なる植物区系のように,過去の分布パターンが大きく異なる樹種からなる地域には定着・分布拡大できない可能性が示唆される。 (2) 外生菌根菌の群集組成に対する宿主の間接的な影響 異なる宿主の林間で,外生菌根菌の群集組成に影響する要因が異なるのかを検証した。国内12ヶ所のスダジイ林と15ヶ所のブナ林で外生菌根菌の群集組成を調査・比較した結果,ブナ林の外生菌根菌群集組成は気候や土壌環境の影響を相対的に強く受けているのに対し,スダジイ林では地理的距離や土壌環境の影響を相対的に強く受けていることが示された。また,スダジイ林ではブナ林と比べて地域固有の外生菌根菌種が多い可能性も示唆された。これらの結果は,宿主の違いが,外生菌根菌の地理分布パターンや,それに対する非生物環境の相対的な影響の強さの違いにつながることを示唆している。
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