これまでの研究成果より、クロロゲン酸がSema3A依存的な遅筋型筋線維形成機構を活性化させることが明らかとなったため、そのメカニズム解明に取り組んだ。まず、上記の結果は初代培養系でによって得た結果のため、筋衛星細胞以外の細胞がクロロゲン酸の影響を受けたことで何らかの影響を及ぼした可能性があった。そこでマウス由来筋芽細胞を用いてクロロゲン酸の添加実験を行った結果、初代培養系と同様の結果を得た。これにより他の細胞が間接的に関わっている可能性を否定しつつ、クロロゲン酸はマウス・ラット間を超えて効力を持つことが示された。またこれまでの研究によりクロロゲン酸によるSema3Aに依存的なシグナリング軸の活性化が筋幹細胞由来のSema3Aとは独立して効果を発揮していることから、クロロゲン酸がSema3A細胞膜受容体(neuropilin2-plexinA3)のアゴニストになっているという仮説を立てた。これを検証するため、neuropilin2に対する中和抗体を用いたクロロゲン酸の添加実験を行ったが、この実験では有用なデータを得る事ができなかった。 更なる応用分野への発展として、筋幹細胞分泌因子であるSema3Aの生理機能の追究を行った。筋衛星細胞特異的にSema3Aを欠損できる遺伝子組換えマウスを用いて、筋損傷・回復時における変化を観察した。以前より筋損傷時に筋衛星細胞特異的にSema3Aを欠損させると、遅筋型筋線維の割合が大きく減少することが確認されていた。今回の実験では新たに、再生初期において運動神経からの伝達を担うアセチルコリン受容体を構成するサブユニットの発現量が低下することを確認した。しかし回復後の神経筋接合部の形態に差は見られなかった。これは本実験で用いた筋損傷方法による影響が考えられるため、他の損傷方法で検証する必要がある。
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