研究課題/領域番号 |
20J13778
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
加藤 譲 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | 同期現象 / 非線形振動子 / 量子同期現象 / 量子測定 / 量子制御 / 最適化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、量子性が強い系に特有の量子同期現象、具体的には量子測定による反作用やエネルギー準位の離散効果の量子同期現象への影響、についてその原理と応用に関する理論構築を行うことである。本年度は、以下の成果を得た。 まず、量子測定の反作用の効果に関して、量子測定とフィードバック制御を用いることで量子同期強度が向上することを示した。これは、量子同期現象において一般的に生じる、量子ノイズによって同期が阻害される問題を、量子測定の反作用という量子系に特有の性質を利用して解決するものである。また、光子数カウントの量子測定によって、2つの非結合量子非線形振動子間に瞬間的な位相コヒーレンスの向上が見られることを示した。これは、古典系における共通ノイズによる非結合非線形振動子間の位相コヒーレンスの向上の研究から着想を得たものであり、量子系に特有の非結合量子非線形振動子間の位相コヒーレンス生成という新奇な物理現象を発見したものである。 次に、エネルギー準位の離散効果に関して、量子系におけるコヒーレンス共鳴現象を発見し解析した。コヒーレンス共鳴は、系に自励振動が生じる分岐点の近傍で、系に適度なノイズを加えると、非振動状態にあった系が分岐点を超えて周期的な応答を強める現象であるが、これまで量子系においては明示的に解析されていなかった。量子系においては、古典系同様の応答のピークに加え、エネルギー準位の離散効果による2つ目のピークが見られることを示した。その他の研究として、量子非線形振動子に対する量子漸近位相の定義を導入し、強量子領域における量子同期現象の解析を行なった。 その他、量子系にも適用できる弱摂動非線形振動子の引き込みにおける大域的な周期外力の最適化に関する研究成果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、量子測定とフィードバック制御による量子同期強度の向上と量子コヒーレンス共鳴現象に関する研究成果を想定していた、その他に、2つの非結合量子非線形振動子間に瞬間的な位相コヒーレンスの向上、量子漸近位相の導入による強量子領域における量子同期現象の解析、量子系にも適用できる弱摂動非線形振動子の引き込みにおける大域的な周期外力の最適化の研究成果を挙げることができ、当初の計画以上の進展が見られている。 量子測定とフィードバック制御を用いた量子同期強度の向上の成果に関して、制御系の査読抄録有り国際会議にて1件の口頭発表を行い、物理系の査読有り学術誌論文に1件受理された。また、量子測定による2つの非結合量子非線形振動子間に瞬間的な位相コヒーレンスの向上の成果に関して、物理系の査読有り学術誌論文に1件受理された。 次に、量子コヒーレンス共鳴現象の解析の成果に関して、査読有り学術誌論文に1件受理された。また、量子漸近位相を用いた強量子領域における量子同期現象の解析に関して、物理系の国際会議にて1件の口頭発表を行い、物理系の査読有り学術誌論文に1件投稿済みである。また、量子系にも適用できる弱摂動非線形振動子の引き込みにおける大域的な周期外力の最適化に関する成果について、応用数理系の査読有り学術誌論文に1件投稿済みである。 その他、国内学会に関して、制御系1件、物理系1件、量子情報系1件の計3件の口頭発表を行なっている。
|
今後の研究の推進方策 |
量子測定の反作用の効果を用いることで、量子系における擬確率分布の局在化を達成することができる。量子測定の反作用による局在化によって、量子系におけるカオス現象のダイナミクスが明らかにされている。今後は、この先行研究から着想を得て、量子測定の反作用による局在化を利用して、量子同期現象のダイナミクスを明らかにしていく。 また、近年、超電導量子ビットやルビジウム原子集団などの量子スピン系における量子同期現象の実験的成果が得られており、量子スピン系における同期現象が注目を集めている。量子漸近位相を用いた強量子領域における量子同期現象の解析を量子スピン系に対して適用することで、古典非線形振動子系における同期現象と量子スピン系における量子同期現象の対応を明確化する。 その他、量子漸近位相を用いた強量子領域における量子同期現象の解析の成果及び量子系にも適用できる弱摂動非線形振動子の引き込みにおける大域的な周期外力の最適化に関する成果に関して、投稿した論文を受理させる。
|