本研究の目的は、量子性が強い系に特有の量子同期現象について、その原理と応用に関する理論構築を行うことである。本年度は、関連する研究として以下の成果を得た。 非線形振動子と周期外力との同期現象における周期波形の大域的な最適化:多次元の力学系の方程式から1次元の位相の方程式を導出して、同期現象の制御に関する最適化理論を定式化した。特に、大域的で複雑な最適化問題に対して、その数値最適解を求める手法を提案した。より具体的には、周期入力のフーリエ級数展開に基づいて最適化問題を定式化し、その展開係数の数値最適解を非線形計画法により求めた。例として、所望の定常位相分布を得るための最適化と収束速度の大域的最大化の2つの最適化問題に対する数値最適解を導出し、その有効性を示した。なお、本手法は、半古典近似下における量子系に対しても適用できる。 確率振動子系に対する位相振幅関数の導入:決定論的な系における非線形振動において、線形に発展するように定義された位相振幅関数は、その解析や制御において役立つ。本研究では、ノイズを受けた確率系の非線形振動に対して、線形発展する位相振幅関数の定義を導入した。この定義は、非線形系の時間発展を関数空間の線形作用素で表現して非線形性を回避する作用素論的解析に基づいている。例として、ノイズなしでは振動が起こらないノイズ励起振動や半古典非線形振動に対しても、導入した位相振幅関数が妥当であることを数値計算により示した。また、この定義を拡張した、量子系における漸近位相に関して、現在研究を進めている。 その他の研究として、作用素論的解析に基づいたエレメンタリーセルオートマトンの解析、振幅縮約理論を用いた強入力下における注入同期の最適化を行なった。 また、量子活性抑制系におけるチューリング拡散誘導不安定性の解析なども研究に関する成果を得て、現在研究を継続中である。
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