2021年度、私は主に低質量原始星L483とB335の研究を進め、主に以下の結果を得た。これらは進化段階の若い天体であり、若い原始星の円盤構造を調べるという目的・計画に沿っている。 主成分分析を活用した化学組成分布の分類:電波観測の高度化により、一度の観測で豊富な分子輝線を検出できるようになった。膨大なデータの解析手法として、主成分分析(PCA)を原始星周りの分子輝線データに適用した。円盤・エンベロープ構造に有機分子を豊富に含むL483(23種類の分子輝線)とB335(32種類の分子輝線)に対し、周波数方向(速度方向)を含む3次元データに対するPCAを行った。その結果、上で述べた有機分子の系統的な分布の違いが明らかになった。また、円盤・エンベロープは複雑な速度構造を持つため、3次元分布に対するPCAが非常に有効であることがわかった。 温度分布が示すAccretion shockの兆候 :B335において高分解能観測を行い、原始星周り数10 auスケールの温度分布を調べたところ、半径6 auで降着衝撃波を見出した。これは分子ごとの分布の違いと複数の輝線を活用した温度測定に基づく。HCOOHとNH2CHOはCH2DOHとCH3OHに比べ原始星周りにコンパクトな分布を示す。これらの分子輝線から見積もった温度は、原始星から離れるにつれて一度下がり、再び上昇する様子を示した。原始星からの放射のみではこの描像を説明することができず、降着するガスと原始星周りのガスとの衝突による加熱が起きていることがわかった。また、エンベロープの外側で、温度がダストの氷マントルの昇華温度である100 K以上となっているにもかかわらずHCOOHとNH2CHOは検出されないことから、これらの分子の生成過程が単にダストからの脱離では説明できないことを示した。
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