ビッグデータと科学に裏付けされたデータを融合させた新時代の機械化アーク溶接プロセスの確立を目指し、「溶融金属から副産物的に生じる金属蒸気こそがアーク溶接現象を実質的に支配している」という観点から、今年度はアーク溶接中において金属蒸気によって誘起される諸現象のメカニズムの解明を試みた。 純金属上でのヘリウムティグアークプラズマを対象とした画像分光分析による計測を実施し、鉄蒸気とクロム蒸気ではプラズマ内での過渡的な輸送過程が異なることを明らかにした。これは正味放射係数の大きいクロム蒸気がプラズマを十分に冷却したことで拡散しやすくなったためだと考えられた。また、バンドパスフィルターを備えた高速度カメラを用いた溶接中のタングステン電極表面観察によって、時間経過に伴い電極一部に凸型の変形が生じることが明らかになった。溶接後の電極断面に対して元素濃度マッピングを実施した結果、凸型の変形部はタングステンと被溶接材由来の金属種によって構成されており、輸送された金属蒸気が電極表面一部に堆積することが明らかとなった。ここで、堆積した金属蒸気は溶融し、電極内部へと拡散することで電極表層のタングステン濃度を低下させていた。これは電極表層の融点低下を引き起こしており、結果として金属蒸気の堆積だけでなくタングステン電極の溶融も生じ、電極一部が凸型に変形していったと考えられた。一方、溶融池が形成されない溶接条件において、タングステン電極周囲に傘状の発光領域が出現するときがあった。そこで発光分光分析を実施し、電極周囲に出現する傘状の発光領域はタングステンではなく、電極消耗を抑制させている電極内添加物の蒸気による発光であることが明らかとなった。したがって、輸送される金属蒸気や電極周囲に出現する傘状の発光領域から、アーク放電の起点となっている電極の寿命を予測できる可能性が示唆された。
|