研究課題/領域番号 |
20J13825
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
椋橋 奈穂 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | ペロブスカイト / レーザー / 発光電気化学セル |
研究実績の概要 |
本研究は,マイクロリング構造を鋳型に用いて作製したペロブスカイト/ポリマー複合体を活性層とする発光電気化学セル(LEC)の作製と評価を行い,電界発光を達成,さらには電流励起駆動レーザーへと展開することが目的である.当該年度においてはペロブスカイトレーザー達成の重要なステップであるマイクロリング構造を持つペロブスカイト活性層作製及び電界発光特性の評価を行った.
1)マイクロキャピラリを円筒型基板として用いることにより,マイクロキャピラリ内周部分にLEC作製に必要となる高濃度PEOを含むペロブスカイト/PEO複合体薄膜を得た.この試料をレーザー光励起すると,マルチモードのレーザー発振ピークが観測された.内径の異なるマイクロキャピラリを用いて同様の測定を行ったところ,内径が小さくなるとモード間隔が大きくなったことから,マイクロキャピラリの内周をリング型共振器とするWhispering gallery mode由来のレーザー発振と結論付けた.この結果は現在原著論文にて投稿準備中であり,これまでに良好な共振器特性を発現してきたマイクロキャピラリを用いたLECの実現の可能性を示す.
2)マイクロディスクパターン基板を鋳型に用いたペロブスカイト/PEO複合体LECの作製を行った.ディスクパターンを有する基板に対し垂直方向からAuを真空蒸着し,基板表面とディスク底部を両極とする縦型電極構造を作製した.ペロブスカイト/PEO前駆体溶液をスピンコートすることにより,マイクロディスクパターンの端面に複合体が形成され,光励起下においてはディスクパターンの内周部分からペロブスカイトに由来する緑色発光が得られた.また作製した構造からの電界発光が観測された.マイクロディスクパターンを用いたLEC作製は,電極構造導入とペロブスカイトの形状制御の簡便さから電流励起ペロブスカイトレーザー実現の鍵を握る.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,ペロブスカイト/ポリマー複合体を活性層とする発光電気化学セル(LEC)構造を持つ電流励起駆動レーザーの実現が目的である.この達成のためには,優れた導波路および電界発光特性を持つ活性層を,電極を有する共振器内に作製することが重要である.先行研究より高機能ペロブスカイト/PEO複合体LEC作製には高濃度PEOを含む活性層が必要となることが分かっているが,マイクロキャピラリ内での溶媒の乾燥速度の遅さから高濃度PEOを添加した際にペロブスカイトとPEOが分離するという問題があった.これを解決するために高温の乾燥条件にて複合体作製を行った.その結果,LECの活性層に必要となる十分なPEO濃度を持ちつつ,光励起下でのレーザー発振も得られるようなペロブスカイト/PEO複合体マイクロリング構造を得た.その後マイクロキャピラリを用いたLEC作製とその電界発光特性の評価に取り掛かったが,マイクロキャピラリを用いたLEC作製は電極導入の難しさから困難を極めた.そこで解決策として,マイクロキャピラリ内壁にコーティングされたペロブスカイト/PEO複合体から光励起レーザー発振が得られたという結果から発想し,解決案として新たにマイクロディスクパターンを用いた縦型LEC構造の作製に着想した.マイクロディスクパターン内壁に作製したペロブスカイト/PEO複合体から光励起におけるレーザー発振はまだ得られていないが,電界発光を観測することに成功している.以上のマイクロキャピラリ内に作製したLEC活性層からのレーザー発振の観測,およびマイクロディスクパターンを有する新たなLEC構造の作製と電界発光の達成は,電流励起ペロブスカイトレーザー実現の足掛けとなる.よって本研究の進捗状況についておおむね順調に進展していると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
これまで,マイクロディスクパターン基板を鋳型に用い作製したペロブスカイト/PEO複合体LECからの安定な電界発光および光励起におけるレーザー発振は得られていない.複合体内に多数存在するペロブスカイト微結晶が良好な導波路特性と安定な電界発光を妨げていることが原因として考えられる.この問題の解決に向け,良好な導波路・電界発光特性の両方を付与するペロブスカイト/PEO複合体作製条件が求められる.現在は,これまで用いていた溶媒であるジメチルホルムアミド(DMF)に加えて,ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた溶液作製とマイクロリング構造作製に着手している.さらにPEO添加によるペロブスカイト微結晶の形成が,導波路・電界発光特性に悪影響を及ぼしたことから,解決策としてペロブスカイト単体のマイクロリング構造作製も行っている.DMFと比較しDMSOは蒸発速度が遅いためそれに伴い結晶成長速度が遅く,マイクロディスクパターン内に良質なペロブスカイトマイクロリングを作製できることが期待できる.今後,マイクロディスク内に良好な導波路および電界発光特性を有するペロブスカイトマイクロリングを作製し,光励起によるレーザー発振と安定な電界発光を両立するような構造を作製し,電流励起下でのレーザー発振を狙う.
また,マイクロキャピラリを用いたLEC作製も続行する.現在まではマイクロキャピラリ内に挿入された2本のAu線を両極とするLEC構造を作製してきた.しかしながらペロブスカイトとAu線の接合状態の悪さや,電極間距離の精密な制御が困難という問題があり,電界発光にまで至っていない.今後はマイクロキャピラリ内壁に作製された電極膜と1本のAu線を電極とするようなLEC構造の作製を検討している.電極コーティング法としては,ナノメタルインクの塗布やスパッタリング法を検討している.
|