研究課題/領域番号 |
20J13846
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
齊藤 大幹 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 生物防除活性 / アクセサリー染色体領域 |
研究実績の概要 |
生物農薬候補である有用フザリウムW5株が保持する植物病害防除能がアクセサリー染色体領域に支配されるかの解明を目指し、本年度は有用フザリウムW5株の全ゲノムデータのin silico解析による破壊候補遺伝子および染色体領域の選抜、遺伝子破壊株の作出と選抜、および選抜株と親株の遺伝子発現解析を試みた。 有用フザリウムW5株の全ゲノムデータを植物病原性フザリウム菌のゲノムと比較を行い、当該菌株のアクセサリー染色体領域に座乗する遺伝子および遺伝子クラスターについて詳細を検討した。その結果、当初想定した領域(約1 Mb)よりも狭い約500 kbの領域がアクセサリー染色体領域である蓋然性が高まり、研究対象とする染色体領域の絞り込みに成功した。絞り込んだ染色体領域に含まれる遺伝子および遺伝子クラスター領域について、相同性検索やシグナル配列の有無などに基づき、評価対象とする遺伝子の選抜を行った。また、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いたフザリウム菌の遺伝子破壊系を確立するため、他機関研究者と連携して詳細な実験条件の検討を実施した。その結果、フザリウム菌の複数菌株で安定して遺伝子破壊を行え、かつ従来の相同組換えに基づく遺伝子破壊法より簡便な実験系を構築することに成功した。 本年度の研究成果を含む、有用フザリウムW5株の機能に関する研究をまとめた論文が、微生物学分野ではトップジャーナルであるApplied and Environmental Microbiology誌に掲載され、掲載号のスポットライト論文に選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物農薬候補である非病原性フザリウム菌の機能に関する論文が、糸状菌分野ではトップジャーナルであるAEM誌に掲載され、しかも、スポットライト論文に選ばれたことは特筆すべきことである。さらに、ゲノム科学の急激な進歩を活かし、当該菌のゲノムを植物病原性フザリウム菌のゲノムと比較、生物農薬候補フザリウム菌がアクセサリー染色体を持つ可能性、さらに、その上に、生物防除能に関する遺伝子を持つ可能性を示唆した。その確認のために、Fusariumでは未報告であったCRSPR/Casゲノム編集技術を用いた遺伝子破壊系を他機関研究者と連携して構築した。さらに、遺伝子発現解析を行うことで、本研究の本来の目的である植物病害防除能がアクセサリー染色体上の遺伝子に支配される可能性の解析に目処をつけた。これらはいずれも当初の想定通り、あるいは想定を上回る成果である。ただし、当初予定していた遺伝子発現解析については、実験温室の故障に伴い実施できなかったため、上記のように評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はおおむね当初の計画通りに遂行できたが、唯一、作出した遺伝子破壊株と親株の遺伝子発現解析については実行できなかった。これは接種試験に使用する実験温室が故障したことが原因である。実験温室は2年目の年度初頭に修理されることが予定されているため、それを待って遺伝子発現解析を実施し、2年目の研究計画に遅延を生じないよう工夫する予定である。 また、2年目も引き続き有用フザリウムW5株の遺伝子破壊株のスクリーニングを行う。特に、アクセサリー染色体領域欠失株に病害防除能の低下が見られた場合は、その領域に座乗する遺伝子の破壊株作出とスクリーニングを行う。さらに、比較ゲノム解析等のin silico解析を駆使し、見出した病害抑制関連遺伝子の進化的背景に考察を加える。これらの成果をまとめ、学会発表と国際誌への論文投稿を行う。
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