本研究は、「植物内生株が、アクセサリー染色体領域に、病害防除能を司る機能性遺伝子を獲得することによって、植物病害防除能を持つ有用株が生じた」という進化仮説を設定、W5株をモデルとして、ゲノム解析、遺伝子発現解析、ゲノム編集等の手法を用いて検証することを目的とした。 今年度は、有用フザリウムW5株のアクセサリー染色体領域に植物病害防除能に関連する遺伝子が存在するか否かを明らかにすることを目指し、前年度に引き続き有用フザリウムW5株の全ゲノムデータのin silico解析による破壊候補遺伝子および染色体領域の選抜、遺伝子破壊株の作出と選抜、および選抜株と親株の遺伝子発現解析を実施した。 前年度に他機関研究者と連携して確立したCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いたフザリウム菌の遺伝子破壊系を用いて、有用フザリウムW5株の目的遺伝子破壊株を作出した。作出した遺伝子破壊株についてイネばか苗病に対する生物防除活性を評価したところ、いずれの遺伝子領域の破壊株についても、ばか苗病の防除活性に低下がみられないことが明らかとなった。また、比較ゲノム解析に基づいて絞り込んだ当該菌株のアクセサリー染色体領域約500 kbの脱落した染色体欠失株の獲得を試みたが、作出はできなかった。 そこで、前年度は実験温室の故障に伴い実施できなかった遺伝子発現解析について、W5株だけでなく近縁の土壌病原性フザリウム菌複数菌株を含めて実施し、全ゲノム解析データとともに比較解析に基づく進化考察を行った。その結果、トマト萎凋病菌のアクセサリー染色体とされる染色体の中で、系統分岐群同士で保持パターンが異なる染色体の存在を明らかにできた。これは現在フザリウム属菌で進められている種の再定義や細分化に基づく分類体系と類似しており、ゲノム解析に基づく種分類がフザリウム属にも適用できることを示唆した。
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