ヴィクトリア湖産シクリッドは短期間に環境への適応を通して形態や生態において多様な種が爆発的に生じた適応放散を経験した、進化のモデル生物である。本研究課題では、自然選択を受けて集団内に適応的変異を有する対立遺伝子が広まり、固定する過程をゲノムデータから定量的に明らかにすることで、ヴィクトリア湖産シクリッドの種分化・適応に寄与したとされる遺伝子の進化過程を理解することを目的とした。 2021年度は2020年度に引き続き、種内に生息場所に応じた分集団を持つ種について集団史の推定を行なうために、さらに17個体分の全ゲノム配列を新規あるいは追加で決定した。これにより、近縁種を含めた計31個体分の全ゲノム配列データを用いた、ヴィクトリア湖産シクリッド研究ではほぼ実施されていない集団遺伝解析が可能となった。まず、多型情報に基づく主成分分析、分子系統推定および遺伝子流動を考慮した分岐パターン推定を実施した。その結果、これまで形態的特徴のみで近縁種と考えられてきた未記載種がゲノム情報からも他のヴィクトリア湖シクリッドと比較して最も近縁であることが支持され、また同所的に生息する種間での遺伝子流動の痕跡を確認することができた。続いて、自然選択を受けた適応的な変異を有する対立遺伝子を網羅的に探索し、種・集団ごとに適応に寄与した可能性の高い遺伝子を特定することができた。これらの成果から、詳細な集団史を得ることができ、さらに種・集団内で広まっている適応的変異を有する対立遺伝子が祖先集団でどのような頻度で存在していたのかという遺伝子の進化過程推定において有益な情報を得た。本研究成果は今後論文としてまとめ、投稿することを計画している。
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