研究課題/領域番号 |
20J13953
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
金井 綾香 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 化合物太陽電池 / カルコゲナイド半導体 / 界面欠陥制御 / フォトルミネッセンス / アルカリ金属添加効果 / 銅錫硫化物 |
研究実績の概要 |
本研究では、Cu2SnS3(CTS)薄膜・太陽電池における様々な欠陥が太陽電池特性にどのような影響を与えるかを光学特性や電気特性から相補的に解明し、CTS太陽電池の変換効率(PCE)向上を目指した。まずCTSに内在する欠陥準位を調査するために、CTS薄膜及び太陽電池に対してそれぞれ低温フォトルミネッセンス測定を行なった。その結果、太陽電池構造を構成する、n型半導体であるCdS層の堆積過程中にCdイオンがCTS薄膜表面に拡散し欠陥を補償することにより、新たなドナー欠陥準位が形成されることが明らかになった。この現象から、p型半導体であるCTS薄膜の表面がn型化することで、pn接合界面がヘテロ接合から浅いホモ接合に変化し、界面付近の欠陥を抑制することによりPCE向上に寄与することが示唆された。従って、CTS太陽電池のPCE向上には、欠陥の抑制・制御が重要であることが示された。
また、Na元素をCTS薄膜内に拡散することにより、PCEが向上することが近年報告されている。従って、Na拡散量がCTS太陽電池構造の各部分(界面、バルク、空乏層など)にどのような影響を及ぼしているのかを調査するため、電気化学インピーダンス法などの電気測定を用いてCTS太陽電池を評価した。その結果、Naを含まないCTS太陽電池は、pn界面付近の空乏層幅が狭く、キャリア拡散長も短いことが分かった。これはCTS薄膜内に非輻射再結合中心(NRC)に起因する欠陥を多く含有ことにより、結果的にPCE向上を妨げていることがいえる。一方、Naを拡散したCTS太陽電池は、空乏層幅・キャリア拡散長の増加により、PCEが向上することが分かった。これは、NaがCTS薄膜の結晶成長を促進し、NRCを抑制したことに由来すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度はCTS太陽電池における欠陥評価を中心に研究を遂行してきた。特に、低温フォトルミネッセンス測定をCTS太陽電池の欠陥評価法として用いることにより、n型半導体層から拡散するCdイオンがCTS内に新たな欠陥準位を形成することを明らかにした。またその過程で、現状のCTS薄膜にはNRCの原因となる欠陥が数多く存在することも示唆された。
その改善策としてCTS薄膜内にNa元素を拡散することにより、NRCに起因する欠陥が抑制されることに着目し、CTS太陽電池に対してNa量を最適化したところ、pn界面における空乏層領域が広がり、太陽電池特性が向上することが分かった。従来の研究により、Na元素がCTS太陽電池の変換効率向上に影響することは報告されてきたが、Na元素がCTS太陽電池の空乏層領域の形成に影響していることを明らかにしたのは本研究が初めてである。
以上の実験結果から、CTS太陽電池に内在する欠陥について、定性的に解明することができ、それらの知見を作製方法にフィードバックすることにより、2020年における多結晶CTS太陽電池の最高変換効率を上回る5.2 %を達成することが出来た。従って、申請時に計画したCTS太陽電池の高効率化に対し、期限を前倒しして達成することが出来たため、当初の予定以上に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はCTS系太陽電池における更なる高効率化を目指し、CTSにおけるSnをGeと一部置換したCu2SnxGe1-xS3 (CTGS)太陽電池を実現する。また、Ⅳ族元素比の変化に対して、新たに形成すると予想される欠陥などがCTGS太陽電池特性へ与える影響を、前年度で明らかにしたCTS太陽電池における欠陥の知見と比較することで明確化する。
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