研究課題/領域番号 |
20J13957
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
塩沢 健太 北里大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 超弦理論 / 双対性 / 超重力理論 / Double Field Theory / Non-geometry / 素粒子論 / T双対性 |
研究実績の概要 |
量子重力理論の候補の一つである超弦理論では、時空を有限の長さをもつ弦でプローブするため、点粒子でプローブする一般相対論とは時空の見方が本質的に異なっている。弦はコンパクトな空間に巻き付くことができ、それによって理論はT双対性と呼ばれる対称性を持つことが知られている。T双対性を明白な対称性として持つ重力理論であるDouble Field Theory (DFT)を用いることで、弦の巻き付き効果を含む時空構造を調べることができる。本研究は、この弦の巻き付きモードに着目し、ミクロ領域での時空構造を調査することを主目的としている。 本年度は、弦の巻き付き効果を含む時空の性質を探るため、超弦理論に特有な局所的非幾何学的(locally non-geometric)ブレーン解の構造を調査した。T双対性はRブレーンと呼ばれる局所的非幾何学的ブレーンの存在を予言しており、このブレーンはDFTの古典解となっている。DFTの枠組みを用いてRブレーンの揺らぎゼロモードを調べることによって、このブレーンの動力学を記述する世界体積有効理論が6次元N=(2,0)テンソル多重項およびN=(1,1)ベクトル多重項で与えられることを示した。これはブレーンが保つと期待される超対称性の数と整合的である。さらに、Rブレーンは弦の巻き付き効果を含んでいて局所的非幾何学的であるが、その動力学は従来の場の理論で記述できることがわかった。また、本研究ではRブレーンのみならず、以前に得た局在化KKモノポールなどの他の解に対しても解析を行い、同様の結果が得られた。 今後の展開として、本研究結果を局所的非幾何学的ブレーンを用いて構成したブラックホール解へ応用することが考えられる。これによって、当初の目的である弦の巻き付き効果による時空構造の変形を観測できると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初より続く新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で、参加予定であった研究会の延期および中止が相次ぎ、外部の研究者との活発な交流を行うことができなかった。このため、当初の予定より研究のアクティビティが大幅に減少してしまった。 その中で、本年度は局所的非幾何学的ブレーンの世界体積有効理論を構築することができた。今回構築した世界体積理論は、局所的非幾何学的ブレーンの動力学を記述するものである。この理論では、弦の巻き付きモードにフーリエ共軛な巻き付き座標で張られる空間(巻き付き空間)への揺らぎモードが、通常の6次元超対称場の理論でスカラー場として見える。これにより、局所的非幾何学的ブレーンが巻き付き空間のプローブとしての役割を果たすことを期待できる。したがって、本研究の目的である弦の巻き付き効果による時空の変形を評価する道具として、局所的非幾何学的ブレーンの世界体積有効理論を用いることができると考えられる。 以上のことから、予定よりもアクティビティが落ちたものの、研究の進捗状況としてはおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では、弦の巻き付きモードによる補正が時空の幾何学を変形させることを直接的に示したわけではない。そのため、次年度の研究ではこれを具体的に示すことに取り組んでいきたい。この目標のためには、弦の巻き付きモードによる効果を多角的に捉える必要があると考えている。そのために取れる方策として、現在よく知られているNS5ブレーンとKK5ブレーンの双対性関係をM理論にアップリフトし、さらに深い双対性関係を探っていきたい。さらに、弦の巻き付きモードによる補正として弦の世界面インスタントン効果が知られているが、それを評価する上で重要になるNS5ブレーンおよびKK5ブレーンにおけるケーラー構造についての双対性関係を知る必要があると考える。あるいは倍化した空間をターゲットとする弦のシグマ模型におけるインスタントンを計算することによって、T双対性の効果が明示的に現れるのではないかと予想できる。そのほか、超重力理論に対してDFTを用いて弦の巻き付きモードを摂動的に加え、変形重力理論を構築して時空の変形を明示的に表すことができると考えられる。このような方法を用いて、最終的な目標であるブラックホール時空の巻き付きモードによる変形の解析を進めたい。
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