本研究の目的は、夜の光による概日リズム位相の後退(夜型化)作用が大人に比べて子どもにおいて強く働くのかどうかを検証することであったが、被験者負担の軽減のために、朝の光曝露による概日リズム位相の前進量を子どもと大人で比較する実験に変更し、実施した。 被験者は小学生15名(平均9.9歳)と大人15名(平均44.4歳)であった。実験は実験施設にて1泊2日で行われ、1日目は夕方から各被験者の習慣的な就床時刻の1時間後まで、薄暗い環境下で30分ごとに唾液を採取した。2日目は、起床した被験者に対して照度8000lx、色温度4000lxの光を1時間曝露した。各被験者の光曝露のタイミングは、事前に取得していたクロノタイプ質問紙から推定した概日リズム位相の指標(DLMO)を元に決定した。光曝露後は、1日目と同様に薄暗い環境下で習慣的な就床時刻の1時間後まで過ごし、夕方からは30分ごとに唾液を採取した。1日目と2日目に採取した唾液サンプルからメラトニン濃度を定量し、メラトニンの分泌開始時刻DLMOを算出した。朝の光曝露による概日リズム位相の前進量を1日目と2日目のDLMOの差で定義し、子どもと大人で比較した。 朝の光曝露による概日リズム位相の前進量は、大人に比べて子どもの方が大きいと予想していたが、前進量に統計的有意差は見られなかった。一方で、子どもにおいては概日リズム位相のシフト量と光曝露の概日時刻(1日目のDLMOから光曝露までの時間)の間に強い負の相関関係があるのに対して、大人にはそれが見られないという新たな知見を見出した。 本研究は、光が概日リズム位相に与える影響を子どもと大人で直接比較した初めての研究であり、子どもが過ごす光環境を概日リズムの観点から考えるための基礎的なデータを得ることができた。
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